第12章 小さな亀裂
小「本来は、というより。これから僕が話す事は愛聖さん本人から口止めされてはいるんだけどね···こういった事態になっているから、僕の責任として君たちに話す事にするよ」
少しの間ずっと考え込んでいた社長が、ようやく言葉を切り出した。
小「愛聖さんが君たちよりも少し早い段階で復帰、再デビューしたのは知ってるよね?」
大「はい、まぁ···」
オレたちと同じ事務所に所属して、暫くは研究生として···なんて言ってたけど、どういう理由か復帰会見をする事になって、その後にすぐTRIGGERとのCM撮影の仕事が飛び込んで来たんだよな。
そして、その後も少しずついろんな仕事が入ってて。
小「復帰早々の仕事は、前の事務所の人間···まぁそこは八乙女が絡んではいるけど。その後もRe:valeと同じ飲料水のCM。これは飛び入りでMEZZO"も参加したから環くんも壮五くんも知ってるよね?」
壮「はい。僕たちは直接CM撮影には関わってはいませんでしたが、結果的にという事でした」
環「あのスケボーのやつな。マリーが乗れるようにスゲー練習してた」
小「そうだね。それから記憶に新しいと言ったら、ミスター下岡から声が掛かって参加したミューフェスのアシスタント」
ミューフェスというワードに、イチの表情が固くなるのを感じる。
小「彼女はここの事務所では新人だと本人も言ってるけど、実際は八乙女の所でちゃんとキャリアを積んだ実力のある女優だ。そんな彼女がこれまで仕事をしていても、今日までの収入は実はゼロなんだよ」
三「はぁっ?!そんなワケ!だってどんな小さな仕事にもギャラは発生してるんじゃねぇのか?!」
陸「収入がゼロって、タダ働きって事ですか?」
途端に騒ぎ出すメンバーに、社長は臆することなく話を続ける。
小「正確には、ちゃんとギャランティーは発生してるよ?けどね、愛聖さんは受け取らないんだよ。自分はまだ暫く生きていけるだけの貯えはある。少しでも早くアイドリッシュセブンが光の中で活躍出来る為に、自分が働いて得たものは全て活動費に当てて欲しいって」
三「じゃあ···これまでのオレたちの活動にかかってる費用って···まさか、愛聖の···?」
動揺しながら呟くミツの言葉に、社長が小さく微笑みながら頷いた。