第12章 小さな亀裂
硬直する愛聖に微笑みかけて、軽くひらりと手のひらを振りながら応接室を出る。
後ろ手に閉めたドアの向こうからは、愛聖がなにか叫んでいるけど···気にしない気にしない。
事務所へと続く廊下を数メートル進んで、はた、と足を止める。
社長室では今頃、デビュー曲の事について話し合いがされてるだろう。
と、なれば。
彼らから、愛聖に疑いがかけられた事も社長の耳には入るだろう。
もちろん社長だって、愛聖がそんな事をする人間じゃないってことは分かってくれてる。
恐らく、あの空き巣事件の時に持ち出された物が、どういう流通かを通って流れてしまったんだろうと俺は思うけど。
なんにせよ、愛聖への誤解が解けない限りは話は進まないと思う。
ひとりになったら、愛聖はまた···泣くんだろうか。
あれだけ大泣きをするんだから、相当のショックはあっただろうし。
同じ屋根の下で生活の場を共にしているメンバーに、あらぬ疑いをかけられたんだから。
もし、また泣いていたら。
もう1度、大丈夫だよって抱き寄せて···えっと、あれ?
ちょっと待って。
俺ってもしかして、いや、もしかしなくても···愛聖に凄いことしちゃってない?
俺の中では、愛聖はいつでも年下の手の掛かる···子供?的な?感じ?
だけど、はたから見たら俺も愛聖もちゃんとした大人の姿、だよな?
いくら昔から知ってる間柄だとはいえ、抱き寄せて頭ポンポンはいいとして、千のマネとはいえ···
「う、うわわわわわわ···」
今更ながらさっきの行動を思い出し、体温が上がる。
俺···なにしてんだ?
いやいやいや、愛聖は年が離れた子供!
そう、子供だから!!
自分の意思と反して跳ね上がる心拍数に胸を押さえてみる。
これからは少し···愛聖に気を使わないと、だな?
うん、そうしよう···
ひとりで変に納得して、大きく深呼吸をする。
「さて、行きますか」
誰に言うわけでもなく呟いて、やり掛けの仕事をする為に自分のデスクへと向かいだした。