第12章 小さな亀裂
とめどなく溢れ出す涙を指先で払ってやり、コツンと額をくっつけた。
「俺は愛聖がそんな事はしないって信じてる。そんな事をするような人間じゃないって、ちゃんと分かってるから。今はみんな、それぞれが困惑して、混乱して···どこにもやれない苦しさを愛聖に向けて吐き出してしまっただけかも知れない」
『でも、四葉さんも七瀬さんも···』
「大丈夫。ちゃんと分かってくれるから···だから、もう泣くのは終わり。聞いた事ない?どんな女の子も笑顔は可愛さが3割増って」
顔を離して、ツン···とおでこをつつきながら言えば、それを聞いた愛聖かキョトンとした顔で止まる。
『可愛さが3割増って···』
俺を瞬きもせず俺を見ながら言葉を繰り返す愛聖は、段々と少しずつ眉を寄せ始めて。
『まるで私が可愛くないみたいじゃない』
「そんな事は言ってないだろう?愛聖がちっちゃくて可愛いのは昔から知ってるよ。俺も···千もね」
『真正面から言われると、なんか···照れる···』
うん、気持ちの切り替え完了···かな?
「お望みだったら何度でも言ってあげるけど?」
『だ、だから恥ずかしいからいい!···万理のバカ!千みたいなこと言わないで!って、あ···千は違うや。可愛いじゃなくて、愛してるだった』
あ···愛してる?!
千···お前も大概、変わってないな。
「じゃあ、折角だから千のマネでもしようか?」
はい、ギューっと愛聖を捕まえて、そっと首筋に顔を埋めてやる。
囁く言葉は、ひとつだけ。
「愛聖、愛してるよ」
『やめてってば!』
「えぇ···千のマネしただけなのに」
顔を合わせればお互いにフフッと吹き出し、笑い合う。
「じゃ、俺はもう行くけど···大丈夫?」
『うん···平気。万理、なんか···ありがとう』
「どういたしまして、かな?あ、そうだ。愛聖、ちょっといい??」
なに?とにこやかに顔を向ける愛聖を抱き寄せ、いつものように頭をぽんぽんっとしてやる。
「それからこれは、オマケね」
チュッとわざと音をさせながら、おでこに素早く唇を当てる。
『ちょっ、ば、万理?!』
「最後にもう1回、千のマネでした!じゃ、行くね?」