第12章 小さな亀裂
愛聖を残して来た応接室へ戻れば、わっと泣いて多少スッキリしたのか、ソファーにちょこんと座る姿が目に入る。
「はい、これ。喉、乾いてるんじゃないかと思って」
ここへ来る途中で紙コップに注いで持って来た麦茶を手渡し、愛聖の隣に腰を降ろす。
「愛聖がどうしても話したくないって言うなら、そこは敢えて追及はしない。でも、さっき言ったように誰かに吐き出せば気持ちが落ち着くなら、俺は受け皿になれるんだけどな?」
ズルい言い回しだと自覚はある。
言いたくなければ話さなくていいと言いながらも、自分は聞く準備は出来てる、なんて言ってるんだから。
ゆっくりと麦茶に口を付ける愛聖の頭を撫でて、どうする?と目だけで問いかければ、愛聖は目を伏せて、そっと息を吐いた。
『万理、あのね···いま、考えてたんだけど···私、寮を出た方がいいのかな、って』
「は?···え?!寮?なんで?!」
思わぬ方向からの言葉に、思わずおかしな返答をしてしまう。
『実は···』
ようやくぽつりぽつりと話し出す愛聖の話は、俺が想像もしてなかった角度からの内容で···ただ、驚きを隠せずにいた。
『もちろん、神に誓って私はみんなの曲をだとか、そんな事はしてないよ。けど、私が元八乙女プロダクションの人間であるっていう事と、それから···今でも楽たちと仲良くしてるって事が···』
「それは関係ないだろ?TRIGGERと仲良くしてるのがダメなら、Re:valeはどうなんだ?いくら昔からの知り合いとはいえ、他の事務所の人間じゃないか」
『そう、だけど···七瀬さんが···』
そう言ったきり、愛聖は口を閉ざす。
事のきっかけ環くんが、まぁ、暴走した所からだったけど。
陸くんもなにか起爆剤になってたとか?
受け皿になると言った手前、俺から話を進めるのもどうかと思いながら次の言葉をじっと待っていると、何度も瞬きをしたり、小さくため息を吐いたりした後···重くなった口を開いた。
『この間、どうしても見過ごせない都合があって、楽と一緒にいた事があって』
「楽って、TRIGGERの八乙女楽くん?」
確認するまでもないけど聞けば、愛聖はそうだという代わりにコクリとひとつ頷いた。