第12章 小さな亀裂
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
紡さんからの報告内容で、俺は社長に頼まれてアイドリッシュセブンのみんなを呼びに行く途中で愛聖とぶつかって···と、そこまではまぁ、よくある事だけど。
まさかその愛聖がここまで泣きじゃくる姿を目の当たりにするとは思わなかった。
こんなの、愛聖が小学生の時以来の姿だよ。
学校でイジメっ子に意地悪されて、片親しかいないって事を言われて。
その母親も仕事をいくつも掛け持ちしてたこともあって、捨てられっ子だとか言われて帰って来た···あの日。
俺もたまたまバイトが休みで、買い物にでも行くかなぁ?なんて外に出た時にマンションの通路で今みたいに愛聖とぶつかって。
今にも泣き出しそうな強ばった顔の愛聖を見て、驚いたんだっけ。
あの時も、今みたいに頑なになんでもない、関係ないとか言いながら、そんなやり取りをしている内に···わぁっと泣き出して。
ほんと、変わってないよな、そういう所。
誰かに迷惑かけたくない。
心配かけたくない。
子供ながらに必死に傷ついてる自分を隠して。
「ここじゃ人目があるから、向こうの部屋に行こうか」
そっと立ち上がらせて、散らばった荷物は俺が拾い上げて来客用の応接室のドアを開けて、2人でそっと中に入る。
「ちょっと用事を済ませてくるから、ここで待ってて?あ、そうそう。こっそり帰ろうとしてもダメだからな?」
勝手にいなくなるなよ?とクギを刺して、早々にメンバーへ声を掛けに行けば、ここはここで、なんだか重い空気がどんよりと押し寄せていた。
「大和くん、さっきの件で社長がみんなを呼んでるから、全員で社員室へ行ってくれる?」
大「分かった···あのさ万理さん」
「なに?」
大「ここへ来る途中で、愛聖に会わなかったか?」
やっぱりここでなにかあったのか。
「うん、まぁ···会ったけど。それがどうかした?」
会ったことだけを伝えて様子を伺えば。
大「いや···まぁ、なんというか···」
なんとも歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「とにかく社長がみんなと話をしたいそうだから、なるべく早めに、ね?」
本当なら、この場所でなにがあったのか聞くのがいいんだろうけど、今はそんな時間もないし。
早くね?とだけ言い残して部屋を後にした。