第12章 小さな亀裂
『だから、本当に楽とはそんな関係じゃありません』
環「そんなの、分かんねぇじゃん。不意打ちとか、不意打ちじゃないとか、俺らには分かんねぇし」
静まり返る中で、ぽつりと零す四葉さんの声が響く。
環「だから···俺はマリーが、」
大「タマ!」
環「なんでみんなマリーの味方なんだよ!俺らの曲だったのにTRIGGERが歌ってたんだぞ!」
大「誰も味方になったとは言ってないだろ?タマ、とりあえず今は落ち着け」
味方じゃ、ない···?
二階堂さんの何気ないひと言に、ハッとしてみんなを見回してみる。
そこには、四葉さんのように感情を露わにしている人はいなくても···それぞれが複雑な顔をして、私と目が合えば、その複雑さを更に深くしていた。
みんな···もしかして本当は。
心のどこかで疑念を持っている、とか?
じゃあ、やっぱり私···疑われてるの?
普段は、あんなににこやかに話してくれる四葉さんも、それから七瀬さんも···目を、合わせてはくれない。
『どう、して···』
そんなひと言さえ、喉の奥に重くて硬いなにかが詰まっている感じがして、思うように声にならない。
ナ「マリー。ワタシはマリーを信じます」
『ナギさん···』
ナ「マリーはワタシたちの歌を好きだと言ってくれました。だから、どうか···」
泣かないでクダサイ。
ふわり、空気が動く。
鼻腔を擽る香りは、間違いなくナギさんのもので。
それがどういうことなのかを理解するには、時間はかからなかった。
『ありがとございます、ナギさん。でも、これ以上ここに私がいたら皆さんも話が出来ないと思うので···私は先に、帰りますね』
そっとナギさんの胸を押し返し、今できる精一杯の笑顔を向ける。
無理にでも笑っていないと、私の中でなにかが崩れてしまいそうだったから。
ナ「では、ワタシが送りましょう。ヤマト、OK?」
大「あぁ、そうだな。ひとりで帰らせる訳には行かなないし、ナギ···頼、」
『大丈夫です。まだ明るいし、大丈夫···』
二階堂さんの言葉を切るように言って、ドアノブへと手を掛ける。
『じゃあ、お先に失礼します···』
小さく言って、スルリとドアから出る。
ゆっくりと閉めたはずのドアは、この時ばかりは大きな音を立てた気がした。