第12章 小さな亀裂
陸「オレは···愛聖さんがそんな事をする人だとか思いたくないです。けど···環の言ってる事を完全否定出来ない自分もいて、複雑です」
七瀬、さん···?
大「リク、やめろ」
陸「オレ、見ちゃったんです、この前」
一「見た···って、なにをですか?」
妙なところで言葉を止める七瀬さんに、一織さんが顔を向ける。
陸「この前の夜···お風呂から出たナギがリビングの外にいるのを見つけてオレも外に出たんだ。それで、ナギが愛聖さん早く帰らないかなぁとか言ってて···そしたら、八乙女楽と一緒に歩いてるのが見えて」
それって···楽のおじいちゃんのお店を手伝った帰りの事、かな?
一「夜遅くに女性をひとり歩きさせるほど無粋な人ではないからなのでは?」
陸「そうかも知れないけどさ!···でも、その後···抱き合って、その···キス、とかしてたから」
「「 はぁっ?! 」」
『え···?』
あの時···七瀬さんに見られてた···?!
七瀬さんだけじゃなくて、ナギさんにも?!
ナ「リク?軽いキスくらい、ワタシの国では挨拶と変わらないと言いましたよね?」
陸「オレだって言ったじゃん!ここは日本で、キス···とかそういうのは挨拶なんかじゃないんだって。だから···愛聖さんと八乙女楽が恋人同士とかだったら、可能性があるかもって···」
苦しそうな表情で話しながら、七瀬さんは私から目を逸らした。
確かに七瀬さんの言う通り、あの場面だけを切り取って見ていたら、私と楽がそういう風に思われても仕方がないかも知れない。
だけど、そうじゃないっていう事実は事実だから、そこは訂正しないといけなくて。
だから···
『七瀬さん。七瀬さんが見た事は否定しません。あの日はいろいろと事情があって、私は少しの時間だけど楽と一緒にいました。それで、帰りは送ってくれる事になって寮の前まで楽に送って貰って。寮の前についてからも、少し話をして。でも、楽とはそれだけで、七瀬さんが思っているような、そういう関係ではありません』
陸「でも、恋人同士とかじゃないのに···キスとか」
『それも否定はしません。楽は前からイタズラするみたいにそういうのがあって、あの時も別れ際に不意打ちで』
そこに至るまでの事は詳しくは話せないけど、事実は···事実だから。