第12章 小さな亀裂
『すみません、いま戻りました···あれ、紡ちゃんは?』
事務所のミーティングルームへ入ると、そこにはアイドリッシュセブンのメンバーだけが座っていて。
逢「お帰りなさい。マネージャーなら、社長の所だよ」
『社長の?』
大「さっきの事を話しに行ってんだよ」
凭れたソファーから背中を離しながら、二階堂さんが私にそう告げる。
そうだよね···アイドリッシュセブンのマネージャーとして、さっきのTRIGGERのプロモーションの事を社長に報告しなきゃだから。
『それじゃ私、紡ちゃんが戻るまでになにか飲み物を入れて来ますね?』
サッとみんなを見渡せば、テーブルにも、みんなの手元にも、飲み物らしいものはなかったから。
これから話し合いとかするなら、きっと途中で飲み物を用意するより、先に用意してある方がいいだろうし。
とはいえ、ここは寮ではなく、事務所。
みんなが普段飲んでいるようなジュースだのビールだとかはない。
『冷たいお茶···でいいでしょうか···?』
逢「僕も手伝うよ。さすがにこの人数分はひとりで運ぶの大変だから」
『ありがとうございます』
じゃ、行きましょうか?と逢坂さんと2人でみんなに背中を向けた時。
環「なぁ···マリー」
いつもとは違う声の感じで四葉さんが私を呼び、それに答えるように振り返る。
環「さっきの電話、TRIGGERの八乙女楽、からなんだろ?」
『そうですけど···それがどうかしましたか?』
環「なんで?マリーはもうTRIGGERとは違う事務所の人間で、俺たちと一緒の寮にだって住んでっし。なのに、なんで?なんの用?」
普段はニコニコとしている四葉さんが、真剣な眼差しで私を見据える。
『それは···その時の用事でいろいろだけど···』
環「んじゃ、今日のは?」
『今日のは···』
なんて、言えばいいんだろう。
でも、別に嘘をつく必要はないし···だけど···
言葉を組み立てる為に、ゆっくりと瞬きをして、それから四葉さんを見る。
『楽からの電話は···新曲のプロモーションを見たか?って聞かれただけで、他にはなにも』
隠す必要はない。
そう思ったからこそ、ちゃんと話したのに···それを聞いた四葉さんは、さらに表情を険しくした。