第12章 小さな亀裂
『なんで···TRIGGERが···』
いざ七瀬さんがデビュー曲となる新曲を発表しようとした瞬間、駅前のビルのモニターから流れ出した···TRIGGERの新曲。
それはアイドリッシュセブンのとまったく同じ曲で。
どうしてあの曲をTRIGGERが···?
呆然とする私を他所に、ステージでは同じ曲を歌わざるを得なくなったみんなが歌い終わり、足取り重く控え室へと戻って来る。
三「くそぅ···どうなってんだよ!」
一「兄さん、落ち着いて」
環「なんでTRIGGERが俺たちのデビュー曲を歌ってんだよ!ふざけんなっ!!」
バンッ!と大きな音をさせながら、四葉さんがその手を壁に打ち付ける。
大「はぁ···とりあえずみんな1回落ち着けよ」
壮「そうだね···大和さんの言う通りだよ。さ、環くん、帰る支度をしようか」
環「そーちゃんは悔しくねぇのかよ!」
壮「そんな訳ない···けど、今はどうにもならない事態だから」
みんなが戸惑いつつも怒りたい気持ちは···充分に伝わって来る。
だって···だってあの曲は、みんなにとって凄く大事な曲で···
なのに···どうして···
紡「車の用意が出来ました。皆さん···帰りましょう···」
紡ちゃんが強ばった顔のままでみんなを誘導していく。
私もそれに続くように、忘れ物がないかをチェックして···あれ?
荷物を纏めている時に、鞄の中でスマホが鳴り出す。
おもむろに画面を見れば···そこには···
楽···?
こんなタイミングで電話がなるなんて、どうしようかと迷っていると、それに気が付いた二階堂さんが自分たちに構わず出なよ、と言いながら画面をチラリと見て表情を強ばらせた。
大「この着信···もしかして八乙女楽、か?」
グッと手を掴まれてしまい仕方なく頷けば、それを見た四葉さんがまた騒ぎ出してしまい、逢坂さんが宥める、といった状況になってしまった。
大「どんな用事か分からないけど、オレたちは先に出てるから」
ひと言そう残して、みんなの背中を押しながら二階堂さんが控え室から出て行く。
ドアの向こうでは、出待ちをしていたファンの子たちの歓声が上がり、みんなはにこやかに手を振りながらタクシーへと乗り込んで行った。
『紡ちゃん、私もあとからすぐ追い掛けるから先に事務所に···』
紡「でも···」