第12章 小さな亀裂
動揺を隠せないオレたちに、大和さんが一喝する。
大「今日のところは、同じのやるしかないだろう···下手したら、明日からはもう···歌えなくなるかも知れないんだから」
いつもの、飄々とした大和さんの顔ではなく。
いつになく真剣な顔を見せる大和さんを見て、みんなの表情が曇る。
一「二階堂さんの言う通りです。七瀬さん、お願いします」
三「···だな。どんな事になったって、この曲はオレたちの···大事な曲なんだから」
「三月···」
今日のこの日の為に、三月がどれだけ一生懸命に練習して来たのかを、オレも、みんなも知ってる。
三月だけじゃない。
オレたちだって、この日をどれだけ待ち望んで来たのかも。
なのに、なんで···TRIGGERが···?
けど今は、やるしか···ないんだ。
悲しさと、悔しさとが入り交じって、グッと拳を握りながら、顔を上げて、ファンのみんなをまっすぐに見る。
「それじゃあ、みんな!行きまーす!」
イントロがかかって、曲調を聞いて···ファンのみんなが騒ぎ出す。
「···この曲って···いま···」
「だよね?···いま流れてたTRIGGERのと、同じ?」
「まさか即興、とか?」
さっきまでと違い、困惑した顔でファンの子たちがオレたちを見つめる中で、オレたちは今できる精一杯の気持ちで···その曲を歌い終えた。
「今日はホントにありがとう!また会いに来てね!!」
環「···クソッ···なんでだよ!」
壮「環くん、いまは堪えて」
環を宥めながらもファンのみんなに手を振って、壮五さんが環の背中を押しながら控え室へと降りていく。
オレはモヤモヤした気持ちを抱えながら、その後に続いてステージを降りた。