第11章 スタートライン
『あー···ソウデスネ』
楽「棒読みバレバレだ。ったく···」
そんな私に、はぁ···と息をつく楽を見て、いつまでもここでおしゃべりを続けてたらダメだよね?とそっと腕時計を見る。
『そろそろ行くね?あんまり遅くなったらみんなも心配するし、それに楽だってまたお蕎麦屋さんまで戻らないとだから』
楽「俺は別に男だから平気だ」
『分からないでしょ、そんなこと。人間いつどうなるかなんて誰にも分からないんだから。私だって、まさか自分が···』
あんな事になるなんて···と言いかけて、スゥっと下がり出す体温に口を噤む。
楽「愛聖?」
『なんでもない。じゃ、そろそろ行くね?送ってくれてありがとう、楽···おやすみなさい』
ひらひらと手を振って、寮の玄関に向かって歩き出す。
楽「愛聖」
楽が私を呼ぶのと同時にグンッと腕を引かれてよろめけば、その体はあっという間に楽の体に引き寄せられた。
『ちょっと楽!急に引っ張ったら危ないでしょ!』
楽「なんでお前はそうやっていつも1人で抱え込むんだよ。なんの為に···側にいると思ってんだ」
『楽···?』
楽「ひとりで我慢しようとか、そう言うのはやめろ。いつもはRe:valeの2人が助けてくれるかも知れない。けど···俺にももっと···」
甘えろ···
耳元で楽に囁かれ、ゾクリと肌が震える。
どうして急に、そんな事を言うの?
そんな気持ちを込めて顔を上げれば、楽の瞳の中に私が映る。
楽「返事は?」
『えっと···善処します···』
楽「そこは素直になっとけよ」
『私はいつでも素直だけど』
楽「じゃ、ご褒美だな」
それは一瞬の出来事で。
重ねられた唇からふわりと漂う楽の香りに···酔いそうになる。
『楽···な、んで···?』
楽「俺がそうしたかっただけだ···じゃ、おやすみ」
ポンっと私の頭に手を置いてから、楽は何事もなかったかの様に歩いて行く。
『不意打ちで襲うとか···サイテー···』
呟きながら唇を押さえてみれば、まだそこに温もりがある気がして体温が上がっていく。
『楽の······ばーか···』
楽の口マネをしながらパタパタと顔を扇ぎながら寮を振り返り気持ちを整えながら、私は歩き出した。