第11章 スタートライン
『楽、もうこの辺りで大丈夫だよ?そこを曲がったらすぐ寮だし』
お蕎麦屋さんから歩きで送ってくれている楽を見上げて、ふと立ち止まる。
楽「ばーか。ここまで来て、はいそうですかって帰るワケには行かねぇんだよ」
『でも、ホントにすぐそこなのに?』
楽「ホントにすぐそこでもだ。お前は目を離すとすぐ危ない事に巻き込まれるからな」
うぅ···それを言われると返す言葉が見つからない。
『そう言えば、TRIGGERって新曲出さないの?』
アイドリッシュセブンが新曲関係の仕事をしてるのを思い出して、何となく聞いてみる。
楽「新曲か?まぁ、そのうちな」
『そのうちって?···あ、あんまりそういうの聞いたらダメだよね···私はもう、違う事務所の人間なんだし』
楽「だな。親父が知ったら怒鳴り散らすだろうが、俺には関係ねぇよ。お前はお前だからな···アホな所も含めて」
どういう意味よ!と軽く楽を押しやりながら、寮までの道を歩く。
この道は、いつもは万理やアイドリッシュセブンのメンバーと歩くけど、楽と歩いてるのも不思議と変な感じはしない。
むしろ、なんとなく安心するって言うか···なんだろ、この感じ。
まぁ、夜道だからってのもあるのかも知れないけど。
『着いた!ひとりで歩いてると長い気がするけど、今日は楽が一緒だったから早く着いた気がする。おしゃべりしながらだとあっという間に着いちゃう』
楽「お前、普段この道をひとりで歩いてんのか?」
『毎回じゃないよ?ちょっとした仕事の帰りとかは歩いて帰ろうって思ってたりするけど、そういう時って···なぜか誰かしらと途中で会ったりするから』
だいたい何時くらいに帰るとか、そういうやり取りしながら歩いてたりすると、誰かに遭遇することが多いんだよね。
楽「誰かしらって、例えば?」
『コンビニの帰りだっていう二階堂さんとか、スーパーで買い物した帰りだっていう三月さんとか?あ、たまに散歩してたっていう逢坂さんとかも。みんな私と同じような時間に出かけてるんだなぁって思って』
二階堂さんも三月さんも、買い物があるなら遠慮なく言ってくれたら私が帰りに買ってくるのに。
最も二階堂さんの場合···コンビニでの買い物って怪しいのとかだったら私が買えない物もあるかもだけど。
さすがに、その手の雑誌はちょっと···ね。