第11章 スタートライン
さり気なく私を千から引き離しながら、おじいちゃんがみんなを送り出して店の入口を閉める。
『なんか···今のでいろんな汗が出たよ···』
大きなため息を吐き出しながら言えば、レジを閉めた楽も同じように息を吐いた。
楽「ったく···お前はじいさんと外でなにしてたんだよ」
『なにって、お店の暖簾を下げるのを···見てた?って言うか』
実際にはついて行っただけで何もしてないから、手伝ったとは言えない。
「嬢ちゃんはアレだ、ワシと外でラブラブしてたんだよ、な?嬢ちゃん?」
楽「は??」
『あ、はは···そうかも?』
曖昧に笑っていれば、私たちのやり取りを聞いていたおばあちゃんが奥から顔を出す。
「あ~ら、そうかいそうかい。ラブラブねぇ···店仕舞いの片付けもせんで、お嬢ちゃんにかまけてるなんて···ちょっとアンタ、こっちにいらっしゃい」
「イテテテッ!違う、誤解だってばあさん!」
「いいからいらっしゃい!···それじゃおふたりさん、ごゆっくり」
うふふ···と柔らかに笑いながらも、おじいちゃんの耳を引っ張って連れて行く姿が可笑しくて、つい、笑ってしまう。
『ごゆっくりって、2人で片付けすればいいのかな?』
楽「アホかお前は···飯、出来てるから食うぞ。食ったら送ってやる」
『あ、それなんだけど。別に私、ひとりで帰、』
楽「うるさい、決定事項だ」
···八乙女社長みたい。
なんて思った事がバレたら、楽はもの凄く不機嫌になりそうだから黙ってよう。
やっぱり、いろんな意味で楽は八乙女社長にそっくりさんなんだね。
遺伝子って、凄いや。
楽「なにが可笑しい」
『べっつにぃ?』
クスクスと笑いが込み上げるのを堪えながら奥の部屋へと上がらせて貰い、そこに用意された楽の作った賄いをありがたく堪能した。
ちょっと量が多かったから、親子丼は四葉さんと半分こしたとかみたいに、楽に半分食べて貰ったけど。
短い時間のお手伝いではあったけど、それでも今日はとてもいい経験が出来た一日だと、小さく肩を竦ませた。