第11章 スタートライン
千「さっきから見てたけど、酔いに任せて女の子を口説くのはジェントルなやり方じゃないんじゃない?」
「ンなこと言っても、ほれ!兄ちゃんもよく見てみろや?そっくりだろ?そのナンタラって女優に」
思いっきり指さしてニシシ!と笑う客に、千さんは小さく微笑みかけてから、わざとらしく愛聖の顔を見る。
千「そうね···そう言われると、そうかも?ねぇ、もしかしてキミ、本当に佐伯 愛聖だったりして?」
おーい?!
助けに入ったと思った千さんが、まさかの刺客に豹変する。
千「この煌めいた瞳。それから長い睫毛。奪ってしまいたい···唇。どこからどこまで···本人みたいだ」
···どっからそんな歯が浮きそうなセリフが出てくるんだよ。
百「ホントホント!いい匂いとか、華奢な感じとか!」
百さん?!
厨房から出掛けた体を引っ込めながら様子を探れば、百さんまで立ち上がって参戦する。
Re:valeの2人にまで追い詰められたら、もう誤魔化しようがねぇだろ···
『そ、そうですか?でも私、よく似てるって言われるんですよ。だけど···』
スルリと千さんの腕から抜け出した愛聖が、にこやかにみんなを順に見ていく。
千「だけど···?」
『私、あんなに可愛くありませんので~』
うふふっ···と愛想笑いを混ぜながら、まるでどこかで聞いたような言葉を吐き出す愛聖。
『光栄だなぁ···私もあんなに可愛い人と似てるとか言われるなんて、まだまだこれからいい事あるかもー?じゃ、まだ作業がありますので、私はこれで』
くるりと回れ右をしてエプロンの裾を靡かせながら、愛聖が厨房へと戻って来る。
「お前···俺の専売特許をマネすんなよ」
『だって、咄嗟に思いついたのが楽のマネだったんだもん···でも、千や百ちゃんまで混ざって来るとか、ビックリしちゃった』
それは俺もだよ。
お互い顔を合わせて小さく笑って、まだなにかやり取りをして盛り上がる連中を見ながら、洗い物を始める愛聖の隣りに並んだ。