第11章 スタートライン
❁❁❁ 楽side ❁❁❁
「お嬢ちゃん、ビールおかわり!」
『はーい!お待ちくださーい』
俺が店に出れない代わりに愛聖が忙しなく動く。
「おい、あの常連客ずっと飲みっぱなしだから俺が行く」
ほろ酔いをとうに超えている様子の馴染み客を見ながら言えば、愛聖はそれでも大丈夫だからと注文された物を持って出ていく。
あの客は、じいさんの昔からの知り合いだけど酔うと面倒な絡み方するから。
「なぁ、お嬢ちゃん?アンタずっと働きっぱなしだから、ちょっとここ座って1杯付き合えや?な?」
『あ、私お酒はちょっと···』
ったく···だから言ったのに。
「そういやアレだ。お嬢ちゃん···どっかで見たことあるような顔してんなぁ···」
『そ、そうですか?』
「どこだっけか?·········あっ!アレだ!あのスケベなCMのやつだ!」
まさかと思うが···いや、多分、あの俺たちとのCMのことだろうな。
「あぁ!アレか!オレも知ってんぞ!なんつったっけ?···えーと?なんたら···愛聖だ!」
おい!バレてんじゃねぇか!
『あの女優の佐伯 愛聖さんですか?』
って、なに自分で名前バラしてんだよ!
黙ってりゃ酔っ払ってんだから分かんねぇだろうが!
天然炸裂な感じの受け答えをする愛聖にハラハラする。
「それだ!でっかい事務所にいたのに、なんでか分かんねぇけどチッセェ所に移ったとかよ?」
ー ゴホッ!ゴホゴホッ··· ー
客もあまりいない店内に響く酔っ払いの声に、思わぬ方向から噎せ返る音が聞こえる。
······小鳥遊社長かよ。
まさかあの酔っ払いたちも、目の前にいるのがその愛聖本人で、近くのテーブルにいるのがその移籍先の社長だなんて思わないだろうよ···
「お嬢ちゃん、まさか本人か?それとも、そっくりさんか?もうちょっとよく顔見せてみ~?」
『ちょっ、お客さん!顔近っ···』
チッ···もうこうなったら仕方ねぇな。
ここから出てって、なんとかしねぇと!
そう思って厨房を出掛けた時。
千「そこまで、かな?ほら、その手を離してあげて。彼女が困ってる···」
俺と同じように様子を見ていた千さんが、スッと席をたち愛聖を引き寄せる。