第11章 スタートライン
『ご注文は以上でよろしいですか?』
百「あのさ、マリー···なんでバイトなんかしてんの?」
おっと?
百くんがいきなり先制攻撃を仕掛けたね?
『あの、すみません···どなたかとお間違えのようですが···』
まぁ、そう来るだろうね。
岡「百くん、お店の方は忙しいんですよ?不用意に呼び止めたりしたら、ご迷惑です。すみません、お仕事中なのに」
『いえ、大丈夫です。それではお食事をお届けするまで、もう少しお待ちください』
ぺコンとお辞儀をして厨房へ戻る後ろ姿を見ながら、百くんが腑に落ちない顔を見せる。
百「絶対にマリーなのになぁ」
千「モモはどうして愛聖だと思うの?」
百「え?だってマリーの匂いだし、どう見てもマリーだし」
···匂い?
千「そうね···僕もあれは愛聖本人だと思う。けど、その愛聖が違うって言うなら、それでもいいんじゃない?」
フフッ···と含み笑いを浮かべる千くんは、なんだか楽しそうだ。
千「なにか理由があるなら、それはそれでもいい。だから僕たちは、ただの客としてどこまでちょっかい出せるか···それくらいならいいでしょ?社長さん」
「さぁ、どうかなぁ?」
···千くん、なかなか鋭い。
でもここは黙って、ちょっとした小さな楽しみを見守るとするかな?
配られていた水に軽く口を付けて、厨房で何やら話をしている愛聖さんを見る。
隣りにいるのは···あの背格好からして楽くん、だろう。
愛聖さんと楽くんが、どうやってこの状態を切り抜けるか···もし、ここに八乙女がいたら。
下らない茶番をするな!···なんて怒るんだろうけど。
普段シビアな業界にいるんだから、たまにはこんな、和やかな楽しみがあってもいいんじゃない?
厳しさの中にある楽しい時間も、時には必要だからね。