第11章 スタートライン
そんなの最初から知ってるよ~!と言って笑って、ちゃんと冷やしててよね?と言い加えてから、客席テーブル拭き上げてくるねと布巾を持って店内へと移動する。
あんまり楽に千の事を話すのは、ちょっと···悪いかな?とも思うし。
前に楽の部屋で起きた事を思い出して、ひとつ、瞬きをする。
あの時は楽も酔ってたし、いろんな意味で制御が効かなかったってのもあるだろうけど。
楽はいつも、私が千の話をすると不機嫌な顔になるし。
やっぱり別の事務所で、大先輩で、職業柄···対抗するような立場の人間の事は敵視しちゃうのかな?
私から見たら、千は千で、楽は楽···なんだけど。
チラリと楽を見ながら、空いているテーブル席をひとつずつ丁寧に拭き上げて行きながら、同時に割り箸も補充していく。
『うん、これでテーブルセットは完了!』
ひとり呟いて、最後のテーブルから離れようとしたら、入口の扉の向こう側にいくつかの人影が見えた。
また、お客さんかな?
それなら奥でひと休みしてるおじいちゃんを呼びに行かないとだなぁ···なんて思いながら、ガラガラと開けられる扉を見ていた。
「ちょうど空いてるみたいだね。うん···これならゆっくり食事が出来るようだよ?」
暖簾を潜りながら後ろへと声を掛ける人影を見て、やっぱり来店だ!と姿勢を正す。
『いらっしゃいませ!何名様です、か?え?!』
しゃ、社長?!
じゃ、まさか···後ろにいるのは、まさか万理?!
確かに私はここで急遽お手伝いをする事になって···と事情を話して許可を貰ったけど!
まさか社長たちが来るなんて思ってなかったよ?!
小「4人なんだけど、大丈夫かな?」
私と違って落ち着いた様子を見せながら、社長がニコニコと人数を言う。
『あ、はい、えっと···4名様ですね?こちらへどうぞ』
ん?
···4名?!
万理の他に誰が?!
···と慌てながら、社長の後から店内に入って来る人を見れば。
岡「これはとても落ち着いた感じのお店ですねぇ···お出汁の香りが胃袋を刺激します」
百「ホントホント!オレめちゃくちゃ腹減ってきたよ!ね?ユキもそうだよね?」
千「そうね···」
う、嘘でしょ?!
社長と万理だと思ってたら、なんで千たちまで?!
驚きのあまり瞬きを忘れた私と、最後に入って来た千の視線が絡む。