第3章 新しい環境
ここへ来た時に山積みになってた段ボールの大半が折り畳まれ、結構片付け頑張ったなぁ···と腕を上げながら伸びをする。
でも、あともう少しだから最後の1個まで終わらせちゃおうかな?
そう思いながら、ひときわ大きな段ボールを開封して行く。
あれ···?
私、こんな服なんて持ってたかな?
箱から取り出して見ると、やはり袖を通した記憶のない服ばかりタグが付いたままキレイに袋に入って収納されている。
軽く何着かを捲って見ると、カジュアルな物から、ちょっとした所へ着て行けるようなブランドの物まで多種多様に入ってて。
衣装···じゃなさそうだし、もしかしたら他の誰かの物が間違って送られてきたのかも知れない。
一応最後まで見てから姉鷺さんに連絡してみよう。
いくつもの箱を開けながら、一着ずつを丁寧に箱から出しては自分のではないと確認して、中身を取り出した時···一番下に私宛ての封筒が入っている事に気が付いた。
私宛ての···だから、見てもいいんだよね?
そっと封を開けて中の紙を引き出し、開く。
ー 佐伯 へ ー
小鳥遊の所じゃ、満足にギャラも出ないだろう。
何せウチより遥かに小さい、弱小プロダクションだ。
先日来た時も、昔買ってやった物をいつまでも着ているようだったしな。
姉鷺がうるさいから、退職金代わりにくれてやる。
サイズやデザインは、姉鷺と共に買い付けたから不自由はない筈だ。
必要がなければ好きにしろ。
ー 八乙女 ー
社長···少しばかり、いえ···これ以上ないくらいに、小鳥遊社長に失礼ですよ···?
そんな事を思いながら、次々と零れ落ちる涙を止めることは出来なかった。
あの日、あの服を着ていた事···気が付いてくれてたんですね。
それだけでも、嬉しいのに。
こんなにたくさんの···毎日着替えても余る程の服を···どんな気持ちで、選んでくれたのだろう。
それが例え、姉鷺さんに言われたからと言うことでも、嬉しいです···八乙女社長。
いつかまた、この服を着て八乙女プロダクションへ足を運びますね?
その時は堂々と、宣戦布告に行く日かも知れませんよ?
口元を小さく緩めながら、涙を払ってクローゼットへと大切にしまっていく。
この手紙も、一緒にしまっておこう。