第11章 スタートライン
ひ孫って?!
あ···おじいちゃんの孫は楽だから、ひ孫···になるのか···
じゃなくて!!
軽く混乱して、またも楽を見れば。
楽「だから、なんで俺を見るんだよ」
『アハハ···なんとなく···』
楽「常連客のからかいにいちいち反応してたらキリがねぇよ。ほら、次のが上がるみたいだから戻るぞ」
そうだね、なんて笑いながら空いたテーブルを片付けながら、ふと、考える。
もし、誰かが楽のお嫁さんになったら···お義父さんになる人は当然、八乙女社長になるわけで。
八乙女社長がお義父さん···とか。
機嫌損ねたらアウトだな···なんて勝手に思って小さく笑う。
でも、怒らせたら怖いかもだけど、八乙女社長は優しい所も沢山あることを私は知ってる。
小鳥遊社長みたいに、いつも穏やかにニコニコしてるのが理想の旦那サマなのかも知れないけど。
八乙女社長のそういう所だって、きっと世の中の女性からしたら萌えキュンな所にもなるのかも?
だって、1度は結婚して···楽が産まれてるわけだし?
八乙女社長の子育て姿なんて想像もつかないけど、きっと大変な事もたくさんあっただろうし。
私の···母さんみたいに。
お膳下げを終えて、洗い物をしながら子供の頃のいろんな事が頭の中を巡る。
物心ついた頃には、既に父さんは他界していて母さんと2人だったけど。
それでも楽しかったし、寂しいと思うことはあっても隣に越してきた万理や、そこに出入りする千にも会えて寂しい気持ちは万理と千が埋めてくれた。
楽にも···そんな人がいたのかな?
そんなことを考えながら、なにか引っかかる事があって洗い物をする手が止まる。
万理や千に出会う前の、もっと小さい頃···母さんに連れられて出掛けては一緒に遊んでくれた···少しだけ年上のお兄ちゃん。
見たことのない世界を見せてやる!とか言って、私に木登りを教えたりしてくれた、お兄ちゃん。
年の差を考えたら、ちょうど楽と同じくらい?
遠い記憶の中で薄れてしまって顔なんて思い出せないけど。
いま、もしそのお兄ちゃんに会えたとしたら、昔話とかして笑い合えるんだろうか。
それとも···どこかですれ違ったりしてても、お互い気が付かずに生活したり?
いつか会えたら···そんな小さな希望を胸に閉じ込め、また洗い物のお皿に手を伸ばした。