第11章 スタートライン
『お待たせしました、山菜蕎麦と親子丼のセットです。こちらは天ざる蕎麦です···ご注文のお品は以上でよろしいですか?』
いわゆる営業スマイルというキラキラ笑顔でテーブル席のお客さんに配膳をしていく。
最初は接客するのに初めての事だらけだったからドキドキしたけど、意外と···まぁ、なんとか形にはなってる?
「嬢ちゃん!次のが上がったぞ~」
『は~い!』
私は調理に関しては戦力にならないから、せめて接客だけは頑張らないと!
楽「戻った。次の配達入ってるか?」
『今のところまだ大丈夫。店内の方が混んじゃって···』
楽「分かった。俺もそっちに回るから」
配達から戻った楽が手洗いを済ませて店内へと入る。
「月見蕎麦上がり!···楽、頼むぞ」
カウンター越しにおじいちゃんが仕上がった物を出して、すぐに楽と私で運び出す。
楽「お待たせしました」
『あ、ねぇ、これもセットのだから』
先に出た楽に続いて、丼物を一緒に提供する。
「ここの店にお嬢ちゃんみたいなのがいたのは知らなかったなぁ」
ニコニコ顔のお客さんが、私を見ながら割り箸を開く。
『今日は私はお手伝いなんです』
楽「ウチの婆ちゃんがちょっと今日出れなくて、今日だけなんですけどね」
「そうかそうか!あ···もしかしてお嬢ちゃんアレか?兄ちゃんのコレか?」
ん?と私を覗き込みながら、お客さんが小指を立てる。
『えっ?!違いますよ!』
「違うのか?勿体ねぇなぁ···こんないい尻してんのに」
言いながらお客さんがサワサワと私のお尻を撫でる。
『ひゃぁっ!···ちょっとお客さん?!』
ひと叫びして1歩下がると、その反応が面白かったのかゲラゲラと笑われる。
「いいねぇ!若い子の反応!でも、アレだ。お嬢ちゃんはもうちょっと飯食った方がいいぞ?じゃないと抱き心地が物足りねぇだろ?な、兄ちゃん?」
『抱き···』
お客さんの言葉に唖然として、思わず楽の顔を見る。
楽「お前···なんでそこで俺の顔を見るんだよ」
『だって···なんとなく見ちゃったんだもん』
楽「···見るな」
そう言われながらも見つめてしまって、横で笑い出すお客さんの声で視線を外す。
「これは···脈アリってやつか?若いっていいねぇ、うんうん!おい、オヤジ!ひ孫の顔が見れるのも近いぞ?」