第11章 スタートライン
『それより楽、そろそろ行かなくていいの?お店のお手伝いあるんでしょ?』
お店の入口をチラッと見ながら楽に言えば、楽は小さく息を吐いて、そうだったよな、と笑う。
楽「今日は送ってやれないけど、そのうち飯でも行こうぜ」
『子供じゃないんだから1人で帰れるよ。それからご飯行くなら飲み過ぎには注意だからね?』
前のことをちょびっと含ませて笑えば、楽はバツが悪そうに頭を掻いた。
楽「じゃ、そろそろ行くな?」
じゃあな?と楽が手を挙げかけたとき、ガラッと音を立てながらお店のドアが開く。
「おぉ、来てたのか楽!ちょうどいい、すぐ来てくれ!」
お店の中から顔を出したのは、その会話の感じから楽のお祖父さんである事は分かる。
楽「そんなに慌ててなんかあったのか?」
「婆さんが段差でつまづいて捻挫しちまったみてぇなんだ。店はもう開けて客もいるのに困ったもんだ」
···捻挫?
楽「分かった、すぐ行く。愛聖、また連」
『楽、もし良かったらだけど私も何か手伝えることがあれば』
楽の言葉尻を切るように言って、その腕を掴む。
楽「お前が?いや、でも···」
『皿洗いなら、天才的な力を発揮出来るかも?』
料理の方は···悲しいけど全然ダメだから。
『楽のお祖父さん、どうですか?それならお婆さんもゆっくりさせてあげられるんじゃないかと思うんです』
難しい顔をした楽の向こうにいるお祖父さんに、そう聞いてみる。
「そりゃあ、そうしてくれるなら助かるけど···いいのか?楽を知ってるって事は、あんたもアイドルとか言うやつじゃないのか?それに、楽の父親は···なぁ···」
『同じ世界で仕事はしてますけど、私はアイドルではありません。確かに八乙女社長にお世話になっていた時代もありますけど、いまは別の事務所の人間です。だから、大丈夫ですよ』
社長には後で連絡をして、事情を説明すればきっと分かってくれる。
お金を稼ぐとかじゃなくて、人助け、なんだから。
楽「愛聖、ホントにいいのか?社長に許可とか···」
『大丈夫。うちの社長には後でちゃんと説明するから』
「そうと決まれば、さっそく頼むよ嬢ちゃん!」
少しばかり安心した顔のお祖父さんに微笑み返しながら楽の背中を押して中へ入り、手渡されたエプロンをつけて···お店へと顔を出した。