第11章 スタートライン
えっと···紡ちゃんから教えて貰った場所だと、この辺りだと思うんだけど···
手元の地図をみながら、周りを見回してみる。
事務所から少しだけ離れてる、お店。
« そば処 山村 »
あの時に貸してくれたジャケットを返そうと楽に連絡したら、今日は店の手伝いをしに行く日だからと言われて。
それなら、と···待ち合わせ場所をお店にしたんだけど···って、あ!あった!
キョロキョロと見回していれば、すぐ近くのそれらしい店構えの扉が開いて、おじいさんが暖簾を掛けていた。
···のは、いいんだけど。
あからさまにお店の前で立ってるのも変だし···どうしよう。
楽はまだ、私が見える範囲には姿がないし。
とりあえず、お店の角にいれば目立つこともないし大丈夫かな?
一応マスクはしてるし、まぁ、マスクなくったって芸能人オーラってものがないから平気といえばそうだけど。
まだアザは消えてないし、ノーメイクって訳にはいかないからメイクはひと通りしたけど。
それでもお仕事用のではないから、その辺ウロウロしててもバレないでしょ。
お蕎麦屋さんの壁と電柱の間にそっと体を滑り込ませ、時折こっそりと道路に顔を出しては楽の姿を探す。
···まだ来ないかぁ。
八乙女プロダクションからここまでは、それほど距離はないと思うから···そろそろ来るとは思うんだけど。
いまどの辺にいるのかだけでも、ちょっと聞いてみようかな??
ガサガサとカバンを探ってスマホを取り出し楽のアドレスを探す。
「お前、こんな所でなにしてんだ?」
『ちょっと待って···楽のアドレスは···と』
···え、誰?!
ガバッと顔を上げれば、そこには待ち人の姿があって。
楽「張り込み刑事ごっこでもしてるのか?こんな隙間に入り込んでチラチラ様子を伺うとか、子供かよ」
『だって楽がなかなか来ないし、まだかなぁ?って思って』
楽「近くのパーキングに車入れてたんだよ。店の前に路駐する訳に行かねぇだろ?···ってか、お前···刑事には向いてねぇかもな」
別に今から刑事になろうとか思ってはないけど···なんか引っ掛かる言い方な気が···?
『因みに、だけど。どうしてそう思うの?』
コホン···と小さく咳払いをして聞けば、楽は吹き出すように笑い出す。