第11章 スタートライン
「最高のお仕置き、だったでしょ?」
『て···天?!』
ヘナヘナと壁伝いに座り込む愛聖を残して、ボクはエレベーターから降りる。
「気分転換したらちゃんと戻るから心配しないで···Bye?」
事務所がある階のボタンを押して、CLOSEボタンに触れてから体をエレベーターから離す。
閉まっていくドアの向こうでは、ハッとした顔の愛聖がボクを見ていて。
『天のバカっ!!』
そんな叫びを残してエレベーターが動き出した。
「ほんと···お節介なんだから」
思わず声に出した言葉に、コーヒーを入れていた龍が振り返る。
龍「天、なんか言った?」
「別に。それよりさっきの曲の事だけど···って楽、そんなにウキウキして···なに?気持ち悪い」
ほんとにあの曲を自分たちが歌うのか?と確認しようとして楽を見て、そのあからさまな様子に眉を寄せた。
龍「楽、この後オレたちオフだから夕飯でも?って思ってたけど、誰かに会う予定でもあるのか?」
何度も鏡を見ては髪を直し、ジャケットの襟を触る楽に龍が笑いかける。
楽「あぁ···まぁ、ちょっと、な」
龍「ちょっと、て?誰に会うの?」
あの様子、まるで愛聖にでも逢いに行くみたいな雰囲気だ。
前にもそういうことあったし···そう言えば。
あれから1週間以上経つけど、愛聖からなにも連絡はない。
「ねぇ、楽?愛聖はあの日の後の事を、なんて言ってた?」
楽「あぁ、あれな···特に変わりはないって。次の日の朝に届け出を出して、あっちの社長に付き添われながら病院も言ったって聞いたけど」
顔色ひとつ変えずに言えば、後ろ姿の楽が返事だけを寄越す。
「そう···で、その連絡が来たついでに、楽は愛聖と食事の約束でも取り付けたってわけ?」
楽「···天。カマかけるとか、おまえかわいくないぞ」
「ボクは別に、龍が気になってる事の答えを導き出しただけ···じゃ、愛聖によろしくね?」
楽「あのなぁ!···愛聖とメシ食うわけじゃねぇよ。ただ、アイツが···あの時の俺のジャケットをいつ返そうかって言うから」
···あれか。
「飲み過ぎて襲ったりしないように気をつけて?···あの日みたいに、ならないように」