第11章 スタートライン
『天の意地っ張り』
予想外の方向からの攻撃に驚きならも、かるく眉を寄せた。
「黙ってって言ったのにそれ以上ずっと話し続けるなら、その口···塞ぐよ?」
『天···?本当はもう···分かってるんでしょ?』
「···さぁね」
愛聖がどんな意味を含めてボクに言葉を投げかけているのかは···分かる。
でも今は···もう少し頭を冷やしたいから。
『天、一緒に事務所に戻ろう?···えっ、あっ、ちょっと?!』
そう思っていたところに戻ろうと手を繋がれて、ハッとしながらも愛聖を壁との間に閉じ込める。
「おしゃべりな口は、塞ぐって···言ったでしょ?」
『天は、そういう意地悪しないって分かってる』
驚きながらもボクにそんな事を言って微笑む顔がなんだか悔しくて、つい、もっと意地悪をしてみたくなる。
「ボクは気まぐれだから、いつ、どこでお腹を空かせたオオカミに変身するか分からないよ?」
目を逸らさずに、じわり、じわりと距離を近付けてみる。
『て、天?冗談だよね?···だってここエレベーターで、誰が来るか分からないし?!』
さすがに詰め寄る距離に慌てたのか、愛聖がボクの胸を押し返そうと手を当てる。
「人?途中で止まることのないエレベーターなのに?」
『あ、でもほら!もうすぐ着くし!』
ほら見て!と階を示す表示に視線を向ける愛聖に促され、ボクもそれを見れば···
「まだあと5階分あるよ。ちょっと長めのキスをするだけなら充分でしょ」
『えっ?!』
「ほらもうお喋りは禁止···」
指先で唇をなぞり、そのまま顎をクイッと持ち上げる。
『て···天···?!』
「黙って。それから···目を閉じて」
囁くように言って愛聖を見れば···なんでそんなに力一杯に?と首を傾げるように、ギュッと目を閉じている。
数字が減っていく画面をチラリとみながら、愛聖の頭を掻き寄せて。
その距離、あと僅か。
「な~んてね?ボクがこんな···まるで楽みたいな事をすると思う?」
耳元でクスリと笑いながら言って、その強ばった体を解放してあげる。
同時に、ポーン···と1階に到着したエレベーターのコール音が鳴って、ユルユルと動いていたエレベーターが止まりドアが開いていく。