第11章 スタートライン
「で?そこまでしてボクに用事って、なに?」
本当はそんな事をわざわざ聞かなくたって、愛聖が言いたい事なんて分かってる。
大方···
『さっきの天の言い方は良くないよ!楽や龍が、その···ビジネスパートナー、だとか···』
···やっぱり。
予想通りの展開に振り返りもせず、ため息だけを吐き出す。
「ビジネスパートナーはビジネスパートナーだよ。それ以上も、それ以下もない。ボクは社長がTRIGGERを結成させる為に八乙女プロダクションに入って、楽や龍とTRIGGERっていうグループを組んだ。だから、さっきの楽の言い分なんて聞いてあげられない···あんなの、単なる駄々っ子のわがままだよ」
きっかけはちょっとした事だったけど。
それが次第に大きくなって、止めに入った龍の事もお互い聞かずに···
龍には、悪い事をしたなとは思う。
···龍にはね。
『天は、いまの活動をビジネスだって割り切ってやってるの?』
「そうだね···社長だって、それを望んでる。ビジネスだから、ステージではいつもプロ意識を持って最高の輝きと夢をファンに届けてる」
いつでも、どんな時でも、誰が見ても···最高の輝きを。
そう付け加えようとして振り返れると、そこには壁に背中を預けて俯く愛聖の姿があって。
『じゃあ、さ?天は···私と仲良くしてくれてるのも、ビジネスだから···なんだね···』
「それは話が違、」
『同じグループで活動してる楽や龍の事をそう思ってるなら、同じグループでもない、ただの同じ事務所に在籍してる私は···もっと、そうなっちゃう···よね?』
「だから、楽たちと愛聖は話が違うって言っ、」
『だってそうでしょ?天がそうやって楽たちと距離を作るなら、私はもっと···距離があるから』
目に涙を溜めながら、それでも愛聖がボクをまっすぐに見る。
それを見てボクはまた、大きく息を吐いた。
「もう黙って。感情的なままじゃ、話にならない」
会話を止めるためにワザと冷たく言い離せば、愛聖はグッと息を飲んでボクを小さく睨んだ。
そんな顔で睨まれたって、社長の睨みに比べたら···可愛げが上回るだけで怖くもなんともないけどね。
『天の···わからず屋』
「···は?」