第11章 スタートライン
❁❁❁ 天side ❁❁❁
社長に呼び出されてメンバーと一緒に聞かされた、あの曲。
これまでのTRIGGERとしての楽曲とは、まるで正反対な感じの···
社長がボクたちに路線変更を考えてる?
···それはない、か。
だとしたら。
あの作曲家が社長に言われて、今までとは違ったテイストの物を···と指示されたとか?
同じ作曲家、しかもTRIGGERの曲をずっと書いてる人間が急にそんな事を言われて、ひとつ返事で書いた曲とは思えない仕上がり。
なりより、あの曲。
TRIGGERらしくない、そんな感じがする。
どちらかと言えば···
それを匂わせながら発言してみれば、日向さんはどこか様子がおかしい素振りを見せた。
まぁ、そもそもとして。
才のある人間なら、どんな曲でも作り上げるだろうけど。
例えば···Re:valeの、みたいに。
楽も龍も、あの曲は気に入ったみたいだし。
このままなにも言わず、与えられたままにボクたちの曲とするべきか。
それとも、気に入らないと突っぱねるか。
楽や龍が、気に入ったって言っているのに···それは出来ないか···
社長が普段からビジネスを表に出してボクたちを推してる事を考えたら、これもビジネスだと割り切って前に進むしかない。
ボクたちは···ビジネスパートナー、なんだから。
「ビジネスパートナー、か···」
頭に浮かばせたワードが口からホロりとこぼれ落ちる。
前にそんな事を言って事務所の部屋を出た後、たまたまそこに居合わせた愛聖が怒りながらボクを追いかけて来たっけ。
『天、待って!···待ってってば!』
小走りでボクを追いかけて来る愛聖の声が廊下に響く。
ちょっとした事で楽たちと揉めた後だったから、愛聖の声も聞こえないフリをしてエレベーターに乗った。
そしたら愛聖が扉が閉まる直前に入り込んで来て、1階に着くまでの2人だけの空間が始まった。
「ボクに、何か用?このエレベーターは1階に着くまでノンストップだけど」
目も合わさずに言い捨てれば、愛聖は無理やりといった感じでボクの視線の中に侵入して来て。
『用があるから呼び止めたんじゃない!なのに天は無視して行こうとするから、なんか勢いでエレベーター···乗っちゃった』