第11章 スタートライン
「違いますよ。こんなに艶やかで綺麗な髪に私がハサミを入れる日が来るなんて、世の中分かりませんね···と思っていただけです」
環「ふ~ん?マリーの髪を触って固まってんから、ビビってんのかと思った」
「だから、違うと言ってるでしょう」
全く···と息をついて、ハサミをすぅっと髪に通す。
シャリっと音がした後に、はらりと切り落とした髪が舞い落ちた。
「終わりましたよ、佐伯さん」
ハサミをペーパーで拭いながら言えば、佐伯さんは床に落ちた髪をジッと見つめたまま俯いていた。
「なにか気になる部分でもありますか?」
『いえ···一織さん、ありがとうございました。あの、ついでにと言ったら言い方が変ですけど、前髪もちょちょっと揃えて貰えたら嬉しいな?なんて』
「私がですか?!···前髪のバランスは、それこそ女性にとって大事なのでは?だからそういうのは、プロの方に、」
『パーフェクト高校生、でしたっけ?一織さんの通り名みたいなの』
······は?
『ほら、さっきも言ってたじゃないですか。そのパーフェクト高校生と呼ばれる一織さんなら、前髪くらい余裕で切れちゃうんじゃないかなぁ?なんて、思ったんですけど?』
「···挑発しているつもりですか?」
『いいえ?ぜーんぜん?』
さっきは落ちた髪を見つめて神妙な顔をしていると思ったら、今度はイタズラっ子のようにキラキラと目を輝かせて私を見る。
いつもなら大神さんにお願い事をするのをよく見掛けているのに、なぜ今日に限って私に?
たまたま最後にハサミを持ったから?
もし、さっきのクジ引きで最後になったのが私ではなく他の誰かであったとしたら、その人に頼んでいたんでしょうか?
環「なぁ、いおりんがイヤだって言うなら俺がやる。ん、ハサミ貸して?」
陸「ズルいぞ環!環はさっきもうちょっと切ってやるとか言って2回も切ったじゃんか!だから、一織がやらないんなら、オレ立候補する!愛聖さん、いいでしょ?!」
『私は別に、前髪を揃えてくれるならどなたでも構いませんけど···』
はぁっ?!なんですかそれは!
さっきは私にと言っていたのに!
佐伯さんが誰でも···なんて言い出すから、ざわざわと騒ぎが広がっていく。
大「誰でもいいんだったら、お兄さんも立候補しちゃおうかな?」