第11章 スタートライン
❁❁❁ 一織side ❁❁❁
紡「あの···本当に私まで、いいんでしょうか···?」
『私がいいって言ってるんだから、サクッといっちゃって?』
紡「でも···」
『いいからいいから、ほら紡ちゃん早く?』
大神さんが社長としばらく話し合いをした後に私たちが全員部屋の中に呼ばれ、とんでもない事を聞かされた。
佐伯さんが受けた被害。
それ自体は、先に社長から聞かされてはいましたが···本人の口から聞くとなると、それはそれでまた耳を塞ぎたくなるような内容でもあり。
その時に犯人···その人間から髪を切り取られた部分に合わせて、佐伯さんが長さを揃えたいからと、せっかくだから私たちみんなに少しずつ切って欲しいとまで言い出し。
···今に至る、訳で。
いったい、なにを考えているんだろうか?と首を傾げたくもなったけど、大神さんや社長から佐伯さんがこれからの事を前向きに慣れるように協力してあげて欲しいと言われたら、断ることも···出来ず。
しかも、佐伯さんの提案で髪にハサミを入れる順番はクジ引きにしましょう···なんて、まるでイベント事のように楽しんでいるとなれば、お手伝いをする他ありませんからね。
あんな事があったばかりだと言うのに、佐伯さんは強い···そう、感じさせられました。
万「はい、ラストは一織くんだったよね?」
順番が終わった大神さんからハサミを手渡され、ケープで巻かれた佐伯さんの側に立つ。
『一織さん。よろしくお願いします』
腫れたままの、まだ真っ青にアザがある顔でニコリと笑い佐伯さんが私を見つめる。
「パーフェクト高校生と言われる私ですから、失敗はしませんよ」
そんな軽口を向けながらも、髪を掬う手は微かに震えてしまう。
サラリとした、絹糸のような艶のある髪。
都合があって伸ばし続けて来たと聞かされた髪は、当初の長さの半分程になっていて。
女性の命だと代名詞される物を、あんな風にザックリと躊躇いもなく切るだなんて信じられなかった。
環「いおりん、もしかしてビビってんの?」
いつまでもハサミを入れずにいる私に、四葉さんが真顔で声を掛ける。
陸「さすがの一織も、ビビる事あったんだ?」
茶化すように七瀬さんが続き、それに乗っかる形で二階堂さんまでが笑う。