第11章 スタートライン
万「片時も愛聖の側から離れずにいられたのか?とか、或いは社長と二人体制で同行出来ていたら、こんな事にはならなかったんじゃないか?なんていろいろ考えてて。でも結局は、何を考えても今更だって事に行き着いて。ごめんな、愛聖···こんな時に俺は、側にいてあげる以外···なにもしてあげられなくて」
万理が、そこまで考えてくれてたなんて思ってなかったから、そんな言葉の数々が胸の奥にストンと落ちた。
『万理、ありがとう。いまの言葉で俄然元気出た。万理が側にいてくれるから、私はここで頑張れてる···そんな気もするし···なにより、万理がいてくれなかったら、そもそも私はここには存在しない人間だから』
万「またそんな、大袈裟な」
『本当なんだよ?あの日、あの場所で万理と会わなかったら、私は今頃···母さんと父さんと、呑気にお茶会してるかも知れなかったんだから』
万「···ん?愛聖の母さんと父さんとって?···えぇっ?!そ、それはダメだろ?!」
慌てて声が大きくなる万理を笑いながら、でも本当の事なんだよね~って、敢えて笑って見せた。
『あの頃は本当に気持ちが荒んでて、偶然見かけたRe:valeのPVがキラキラしてて。この広い都会で私がひとりいなくなっても誰も気にしない、だったらいっそ、とかね』
万「おいおい···」
『それで、最後に万理に会いたかったなぁ···なんて思ってたら···粋な神様がいたもんだって感じで』
万「そんな事を聞かされたら、俺はその粋な神様に多大な感謝をしなきゃだよ」
さっきとは違って大きなため息を吐く万理に、それは私も同じだからと肩を竦める。
『だから···これからも側で、私が立ち止まりそうになったら容赦なく背中を叩いて欲しいな?なんて』
万「俺はずっと、愛聖の側にいたと思うけど?」
『···ロスタイム、あったのに?』
万「あー···そういうこと言っちゃう?結構な期間いたと思うけど?だってランドセル時代からだし。それに愛聖が大人になった日も、一緒にご飯食べてたと思うんだよなぁ?」
···ん?
私が大人になった日って???
万「俺がバイトから帰って来て、夕飯何食べようかなぁ?とか考えながら鍵を出してたら、愛聖の母さんがドアから顔だして···」
『母さんが?』