第11章 スタートライン
すーっごく分かりやすくニコリとして両腕を広げる千に、ちょっとだけで大丈夫だからと言って百ちゃんの時と同じようにしてみる。
鼻先を擽る、いつもの千の香り。
どことなく甘くて、でも···凛としたクールな感じがする香り。
それは百ちゃんとも楽とも違う、昔から変わらない···千の、香りで。
『みんな···個性様々だ···』
ぽつりと言えば、千も百ちゃんも不思議そうな顔をした。
『なんでもないよ。独り言』
そう言ってまたジャケットを合わせ直し、随分と派手に破られてしまったな···と思いながらワンピースのスカートを持ち上げて結びあわせた。
百「ちょっ、マリー?!なにしてんの?!」
『え?だって、上は楽のジャケットでなんとか隠せるけど、下はどうにもならないなって思ったから』
百「そりゃそうだけどさ!そんなに捲りあげて結んだら、その、えっと···み、見えちゃう、かなぁ···なんて···アハハ」
チラチラと結び目の当たりを見ながら言う百ちゃんに釣られて、私も同じ場所へと視線を落とせば確かに見えそうで見えない···いや、見えちゃうかな?!くらいのギリギリラインで。
『···百ちゃんのエッチ』
百「えぇっ!そう来る?!···でも、男がエッチじゃなきゃ人類滅亡するから!」
『開き直った?!』
百「違うって!オレもユキも、それから社長さんも!きっとみんなそうだから!ね、そうでしょ?!」
千や社長まで巻き込む百ちゃんがおかしくて、吹き出してしまえば、ピリッとした痛みが口の中を走り咄嗟に押さえ込んだ。
『っ···』
じわりと鉄のような違和感のある味が口の中で広がる。
小「これを使いなさい」
差し出されたハンカチを素直に受け取り、口元を覆う。
小「どれくらいの力で殴られたのか分からないけど、それだけ出血してるとなると···」
『大丈夫です。たいした顔でもないから···ただ、完治して見せられる顔に戻るまではスケジュール入れられないですよね···すみません、大事な時にこんな事が···』
目を伏せがちに言えば、社長はそれは仕方のない事だからと同じように目を伏せた。