第11章 スタートライン
❁❁❁ 楽side ❁❁❁
天「護身術のひとつとして習ったから」
そう言って天が鍵の掛けられたドアをゆっくりこじ開けていく。
それは所謂···ピッキングで、いったいどんな時の為に護身として必要なんだ?と思いつつも、いまはその天の器用な行動に頼るしかない俺たちもいる。
天「···解けた」
うっすらと額に滲む汗を拭いながら天が立ち上がる。
天「開けるよ?」
小「いや、僕が開けよう。もし···まだ中に誰かがいたら危険が伴うかも知れないからね。愛聖さんの事を大事に思ってくれていることはとてもありがたいけれど、そんな君たちにも危険が及んでしまったら取り返しのつかないことになってしまうから」
楽「そんなことは構わない···だから俺が開ける」
おもむろにノブに手を伸ばせば、姉鷺にその手を掴まれてしまう。
姉「待ちなさい楽。焦る気持ちは分かるけど···小鳥遊さんの言うことは正当な理由よ?···だからここは、アタシがまずドアを開けて小鳥遊さんと中の様子を探る。アンタたちが中に入るのはその後よ」
分かった?と念押しされて、仕方なしにノブから手を離す。
姉「それじゃ、小鳥遊さん···開けますよ?」
姉鷺の言葉にひとつ頷いて、壁際に体を預けた小鳥遊社長が息を吐く。
ゆっくりとドアが開けられる様子を見ながら、ふたりの肩越しに自分も中の様子を覗き見れば、当然、俺たちがいる方が明るい為に、薄暗い部屋の中はぼんやりと物の形が判別出来る程度にしか見えなかった。
様々な資材が並び、その中に人影なんて見当たらない。
でも、この中にアイツはいるはずなんだ。
「姉鷺、目視はもういいだろ?」
姉「そうね···」
「なら、そこを開けろ。中に入る」
グイッと姉鷺を押し退けて、少し開かれたドアを一層大きく開く。
姉「あ、ちょっと楽!」
小「待ちなさい。僕も一緒に入るから」
スッと俺の前に立つ小鳥遊社長に続いて部屋の中へと足を入れる。
ドアの外からじゃ見えにくい部屋の奥へと視線を流せば、そこに···愛聖らしき人影が見えた。
「愛聖···か···?」
『···楽、なの?』
小さく呟けば、その人影が身じろぎして俺の名前を呼んだ。
本人だと確信して近付けば、そこには···予想もつかない状態の···愛聖がいた。