第11章 スタートライン
『やめて···離して···!』
ギリッと腕に食い込む大きな手を振り払おうと、出来る限りの力で抵抗する。
あと少しでドアに···なんて思っていたのに、それも直前で捕まってしまって引き摺られるように引き寄せられ、壁に押し付けられる。
『こんな事をして、何が目的なの?!』
「目的?そんなの···オレたちが楽しませて貰った後に教えてやるよ」
『た···楽しむ、って···なにを···?』
こんな、いかにも···な状況で何をされそうになっているのかなんて考えなくても分かる。
けど、それでも、僅かな時間を稼ぐために出た言葉は、そんなちっぽけな問いだった。
「なにを?って、アンタってほんとに間抜けなのか、それとも鈍感なのか···ま、教えてやるなら···こういうことって感じ?」
ニヤリと笑った相手が、無造作に私の服に手を掛け···思い切り引き裂く。
『っ···やめて!!』
驚きと同時に精一杯の力で突き放せば、ガタンッと音をさせて床にしゃがみこむ姿が見えた。
解けた髪がはらりと肩を触り、ハッとして露わになった胸元を両手で押さえた。
せっかく楽が用意してくれた服なのに···と、胸を痛ませながら、破れた服を重ね合わせる。
いったい誰が、なんの目的でこんな事をしているんだろう。
グルグルと思考を巡らせながらも、なんとかして逃げないといけない事だけを最優先にする。
こんな人がいない場所で騒いだところで、誰も助けに来てはくれない。
だったら、どうにかして伝える方法を考えないと···
どうにか···
なにか方法を···
「この···優しくしてやってれば調子に乗りやがって!!」
立ち上がる人影に距離を保ちながら、少しでも離れていようとチラリと周りを見回せば···
···光が点滅してる?
投げ散らかした鞄の中で、小さな光が点滅している事に気が付いた。
そうだ···電話だったら!
相手に体を正面に向けたままジリジリと鞄の方に近寄り、スマホの画面が光っているのを確認して一気に鞄に手を突っ込んでそれを掴む。
着信している相手の名前を見る余裕もなく通話ボタンを押して応対すれば、電話の向こうから微かに聞こえた声は···聞きなれた不機嫌な声で。
そんな声だけの相手に届くように···悲痛な叫びで助けを求めた。