第11章 スタートライン
落ち着け、オレ。
急に早くなる鼓動にブレーキを掛けながら、さっきマリーを迎えに来たヤツの事をよく思い出してみる。
Tシャツに上着代わりのカットシャツ···Gパン姿。
深めに深く被ったキャップ···に?
腰からは確かにスタッフが持ち歩くようなハサミやカッターが差し込まれたウエストバンドは下げてたけど···
「ユキ、どうしよう···さっきのヤツ、スタッフパス···下げてなかった···」
思わず漏れだした言葉に、その場の全員がハッと息を飲む。
岡「まさかとは思いますが···堂々たる人攫い···?」
「「 おかりん! 」」
顔色を悪くするおかりんにユキと同時に声を掛け、スマホを取り出す。
千「僕が先に掛けてみるから」
「いや、オレが!」
千「同時に掛けたって仕方ないだろ」
お互いに譲らない状況に、鶴の一声が振りかぶる。
小「ふたりとも落ち着きない。僕が掛けてみるから···ね?」
穏やかに微笑みを称え、けど、その目は誰よりも凛とした社長さんがジャケットの内ポケットからそれを取り出し、指先で何度か画面に触れる。
あぁ···そうだった。
こういう時こそ、冷静になって動かないと···だったっけ。
さっき荒らされた楽屋の前で立ち竦んだオレたちに、社長さんが言ったばかりだった事を忘れてた。
小「あれ···おかしいな···」
岡「どうされたんですか?」
小「呼出音は鳴ってるんだけど、愛聖さんが出ないんだよ。就寝するまでは何があるか分からないから留守メッセージ設定にはしてないはずなのに」
電話に出ない···じゃなくて。
それがもし、電話に出られない状況に置かれているんだとしたら···
そう思うと、一気に体温が下がる思いをする。
「どうしよう···オレがあの時に早く気がついてたら···もし···マリーになにかあったら、オレ···どうしたらいいんだろう」
カラカラに乾いていく喉から言葉を押し出せば、それに反応して手が震え出してしまう。
もし···取り返しのつかないような事になってたら。
もし···この先ずっとマリーに会えなくなっちゃうとかになったら。
オレ···どうしたらいい?!
カタカタと震える手をギュッと握りしめれば、そこにそっとユキが手を重ねて来る。
千「モモだけの責任じゃない」