第11章 スタートライン
その気持ち悪さに顔を背ければ、それが気に入らないのかグッと顎先を掴まれた。
「時間もないし、さっさと済ましちまうか?」
「···だな。でもいいのかよ?もし捕まったりでもしたらやべーぞ?」
「この後に及んで怖気ついてんなよ。万が一があっても大丈夫だって言われてんだろ?」
「そりゃそーだけど···ま、いっか?万が一の時には···この女を使って逃げれるだろ」
「そういうこと~。だいたいアンタも悪いんだぜ?あんな風に部屋を荒らしたってのに、懲りずに収録に参加とかしちゃってさ?」
部屋を···?
『じゃあ···あれは?!』
「今頃かよ?」
荒らされていた楽屋を思い出して、背筋がゾクリとして顔が強ばってしまう。
「イイじゃんイイじゃん、その顔···んじゃ、早速···」
いったい誰が、どうして?···とか、考えている余裕なんてない。
いまわたしが1番にやらなきゃいけないのは。
とにかく······逃げ道を探すこと!
でも、どうやって?
背後からはまだ両手を掴まれたままで自由には動けない。
もちろん、前方にも逃げ道は見いだせない。
どうやって逃げ道を作ろう···
気味の悪い笑い方をしながら近付く相手から目を離さずに、なにか状況を変える方法はないかと思考を張り巡らせる。
こんな時···············あっ!
これなら少しはなんとかなる?!
咄嗟に浮かんだひとつの方法で突破口を開けば!!
それは数日前に七瀬さん達と見た映画のシーン。
いまの私と同じような状況の人が···近付いてくる相手に目掛けてアクションを起こすシーン。
そんなのやったことなんてないけど、でも今はやるしかない!!
「さぁ、お互い楽しもうぜ?」
あと少し···
あともう一歩···
来た···!!
身動きひとつ取らない私へと手を伸ばす相手に目掛けて、後ろの人に重心をかけて···蹴り飛ばす。
「なに、しやがる!!」
「大丈夫か!!」
一瞬の隙をついて掴まれた腕をも解き、鞄を掴んで振り翳す。
逃げるなら···いましかない!!
真っ暗な部屋に慣れてきた目で辺りを見回してドアを見つけ駆け出す。
そこまで行けば後は通路に出て···そう、思った矢先に···
『···っ?!』