第11章 スタートライン
何気なくスマホの時計を見て、長く感じた今日の仕事が終わるんだとそっと目を伏せる。
まさかこんな大きなテレビ局の中で、自分があんな事を経験するとか誰だって思ってない。
そのせいもあって、まだ社長は局の上の人と話が済んでないから、こうやってスタッフさんに新しく用意された部屋までを案内して貰っているんだけど。
でも、ちょっと···変?
特になにも会話をすることもなく前を歩くスタッフさんは、通路を曲がる度に周りを見回していて、どことなく落ち着かない様子をも見せている。
他のスタッフさんならきっと、何階のどこの部屋···とかくらい頭に入ってるだろうし。
もしかしたらまだ新人さんで、まるで迷路のようになっている局内が完璧に頭に入ってないから、角に当たる度に確認をしながら進んでいるのかも?
なんて考えたりもしたけど。
ここの局は私も以前から何度も出入りはしているし、それなりにどこを通ればどこへ出る位のことは分かっているつもりではあるけど···この通路の先って言うのは確か···楽屋として使えるような部屋なんてなかったはずなんだけど。
大道具さんの資材が置いてある場所や、色々な撮影に使う道具などが管理されている部屋とか、あとは···俗にいう物置部屋?みたいな場所しかなかったような?
『あの、もしかして迷ったりとかしてますか?』
僅かながらな不安を押し込めて、スタッフさんに声をかければ、ピクリと肩を跳ねてから私を振り返った。
『もし···迷っちゃったんなら、場所を教えて下さったら私が分かるかも知れないんですけど?』
地図なんてなくっても、場所さえ教えてくれたら多少は考える時間が必要でもちゃんと正しい部屋まで到達することが出来るはずだから。
···いくら私でも、ね。
「···大丈夫です。自分、ちゃんと言われた場所へと向かってますから」
『でもこの先って確か楽屋として使えるような部屋はなかったと思うんですが』
「もう···着きますから」
急な事だから、普段は使わないような場所しか空いてなかったのかな?
それにしても、行く先は薄暗くて、タレントどころかスタッフさえ見当たらないような気もする。
「着きましたよ···ここです」
『え···ここって、』
ドン、と突き押されるように真っ暗な部屋の中へと押し込められた勢いで、床へと倒れ込んでしまう。