第11章 スタートライン
ドアに1番近かった百ちゃんが返事すれば、遠慮がちに開けられた向こう側にスタッフさんがいた。
「すみません、こちらに佐伯 愛聖さんはいらっしゃいますか?」
···私?
『あ、はい。私ならここに』
Re:valeの楽屋のドアを叩いた人間が私の所在を確認するなんてと思ったけど、いまは一時的に楽屋を共有させて貰ってるからかな?なんて勝手な解釈をして姿を見せる。
千「愛聖にどんな用事?」
スッと私を隠すように前に立つ千が、スタッフに尋ねた。
「佐伯さんのお部屋の用意が整いましたのでご案内するようにと」
千「案内?でも愛聖はもう帰るだけだよね?だったら帰り支度なんてここでも構わないんじゃない?」
百「だよね?帰り支度だけの為に部屋を用意するとか意味あんの?」
「そう言われましても、上からの指示ですので···同行されている方にも許可は得てますから」
上からって、もしかして社長に話があるからって言ってた人のことかな?
それに社長にも了承されてるなら、現場のスタッフさんは、それに従わないといけない立場の人ばかりな訳で。
『分かりました。荷物を纏めますから少しだけ待って頂けますか?』
千「愛聖?」
あからさまに怪訝そうな顔を見せながら、千が振り返る。
『社長も承認ってことは、社長も私の移動先を分かってるって事だし、千たちだって私がいたら出来ない支度もあるでしょ?着替えとか、他にも』
千「別に僕はそんなの気にしないけど?普段からお互い見慣れてるんだし」
『···断じて見慣れてはいません!』
それはまぁ、千は自分の家にいる時は私や百ちゃんがいても平気で裸同然でシャワールームから出てきたりするけど!
百ちゃんは千と同性だから関係ないかもだけど、でも自宅と仕事中は別物でしょ。
「女性なので手荷物が多いのはこちらも分かってますから、必要最低限だけ支度して頂ければ残りは別のスタッフがすぐにお届けします」
百「え?なんで?」
「自分は部屋に案内したあと別の用事を申し付けられているので···」
『そういう事なら、お願いします』
そう言って必要最低限···にしては少し多いかも知れない手荷物を持ち、迎えに来てくれたスタッフさんの後に続いてRe:valeの楽屋を後にした。