第11章 スタートライン
『え?じゃ、じゃあ···いまのはウソ?』
ポカンとしながら聞けば、千も百ちゃんも横を向いて肩を揺らしていた。
『千はともかく百ちゃんまで騙すとか酷い!』
百「ごめんごめん!だってユキはホンキでやりそうだったし、だったらオレも!とか···ノリで?」
ノリで?じゃないよ!
むぅ···といつもの感じで膨れていると、それを見てまた笑い出した百ちゃんが、ちょっと待ってて?と言って自分の鞄をガサゴソと探る。
百「はい、これあげるから機嫌直してよ?」
『って、これ···飴玉···』
百「そう!そうなんだよ!オレの好きなももりんがキャンディになったんだよ!超美味しいからさ、ほら口開けて、はいアーン?」
それはさすがに恥ずかしい···と戸惑っていると、横から現れた千がパクリと食べる。
千「うん、ももりんと同じ味だ」
百「でしょ!···じゃなくて!なんでユキが食べちゃうんだよ!」
千「だって母さんが僕を放置するから···」
百「···ダーリン!!」
はいはい···またですか。
Re:vale劇場が始まるのを横目に小さく息を吐きながら立ち上がる。
さっき感じた事は、帰りながらにでも社長に報告してみよう。
もしかしたら私の勘違いかも知れないし、なにより···いまの私の直属の上司は、小鳥遊社長なんだから。
心配させたくはないけど、なにも言わずに黙ってるのはダメだからね?と言ってくれた社長の顔がふわりと浮かぶ。
社長だって忙しいのに、私に同行してくれてるんだから相談、報告はしないとだよね。
『よし!そうと決まれば着替えなきゃ!』
自分を元気付ける為にひと声出してグッと手を握る。
せっかく楽が用意してくれた服も、汚したりしたら悪いし。
お礼も姉鷺さん伝いにしか言ってないから、後で楽屋に行って、楽に直接ちゃんとお礼を言おう。
それにしても···と、姉鷺さんが楽に頼まれたとか言って持って来てくれた服が入ってる袋を眺める。
ひとつあるだけでも助かるのに、こんなにたくさんだなんて···八乙女社長から頂いた服もまだ袖を通してないのだって何着もあるのに。
さすが親子···とか言ったら、どっちにも怒られそうだから言わないでいよう。
千「どうかした?」
いざ!と立ち上がったまま動かずにいる私を見て、千が歩み寄る。