第11章 スタートライン
刑事ドラマや探偵映画の世界ならとも思えるけど、これは現実で。
だけど、私の知らないところで良くないことが起こり始めているって事だけは、確定しつつあって。
ヨロヨロと壁に背中を預けて、思わずしゃがみ込む。
スッと目の前に影が落ちるのを感じて顔をあげれば、そこには百ちゃんの背中が見えた。
百「ユキ!それ以上マリーに詰め寄るのやめなよ!怖がってるじゃんか···ただでさえ、あんな事があったっていうのにさ」
千「別に僕は詰め寄ってる訳じゃない。ここにいる、わからず屋のお人好しにクギを刺してるだけだ」
百「わからず屋って···確かにマリーは、危機感が少し甘いのかなとか、オレも思うことはあったけど。でもいまのユキの言い方じゃ、マリーからしたらユキが味方だと思えない言い方だったよ」
危機感が少し甘い···百ちゃんから聞かされた言葉がチクリと刺さる。
私が小鳥遊社長の所にお世話になってる理由も、きっとそういう所が関係してるのかも知れないと思うと、またそれがチクリと刺さった。
千「愛聖、僕は責めてる訳じゃない。ただ、しばらくの間は誰彼問わずに何かを受け取ったりするのはやめた方がいいってだけ。事務所の人間や僕たち、それから前の事務所の関係者以外は警戒心を持ちなよ」
『···分かった』
あんな事があったんだし、解決するまでは特に···と付け加えて、千はため息を吐いた。
千「さて···厳しい話はこれで終わり。あぁ、そう言えば愛聖は喉がカラカラだったっけ?なにか用意するけど自分で飲める?それとも、僕が飲ませてあげようか?···なんなら、口移してあげてもいいけど?」
···は?
百「えっ?!ユキだけズルい!ユキがそれやるならオレも!」
えっ?!
千「モモが?···じゃあ、僕が先ね?」
百「ダメダメ!こういう時はジャンケンだよ!マリーもそう思うでしょ?!ね?!」
百ちゃんの、ね?!、という勢いに押されて思わず頷きそうになるのを堪え、そうじゃない!と我に返る。
『ちょっと待ってふたりとも!確かに喉は乾いてるかもだけど、その申し出はお断りします!!』
「「 なんで? 」」
『なんでも!』
咄嗟に口を隠して言えば、それを見て千がしたり顔を見せる。
千「やっと普段通りの愛聖に戻ったね」