第11章 スタートライン
壮「そういう時は、この部分を押さえれば魚の頭が自分の手で隠れてしまうから怖くないよ」
逢坂さんが自分のまな板に置かれた魚でやって見せてくれて、それなら私にも出来るかも?と同じように手を当ててみる。
三「よし、押さえたな?そしたら包丁はこういう角度で先を入れて、中骨に沿って動かして···あ、違う違う!そうじゃなくてこうだよこう!」
ちゃんと同じようにしてるつもりなのに、どういう訳か私の魚さんは包丁が入って行かずにむにむにと動いてしまう。
三「なんか危なっかしいなぁ。あ、そうだ!ちょっと後ろにつくぞ?いいか、ここを押さえたら、こっちをこうやってだな···」
私の背後に立った三月さんが、後ろから腕を伸ばして包丁や魚を持つ私の手に自分の手を重ね、ゆっくりと魚を切っていく。
私より少し背が高い三月さんが肩越しからまな板を覗き見ながら耳元で話すから擽ったいのと、普段こんな至近距離で声を聞くことがなかったのとで···耳が、熱い。
チラリと隣を見れば、逢坂さんは難なく事を済ませている。
···集中しなきゃ。
そう思えば思うほど、背中にピッタリとくっついた三月さんを意識してしまって。
『み、三月さん!···降参します』
三「しょうがねぇなぁ。じゃ、今度は魚丸ごとじゃない時に教えてやっから」
いえ、魚じゃなくて···三月さんに降参なんですけれどね。
う~ん···あの時はあの時で、ドキドキ感が半端なかったけど。
これもセクシーとは、ちょっと路線が違うかな?
どっちかと言えば、セクシー云々よりも女の子が憧れるシチュエーション···的な?
お皿とか洗ってたりする時に、そっと寄り添ってきて。
三「ほら、袖口が濡れるだろ?」
とか言って、バックハグ状態で袖口を捲ってくれる感じとか。
待って!
なんでその想像に三月さんが出演してるの?!
わわわっ、止まれ、私の思考!
駆け出しそうな想像に急ブレーキを掛けて、パタパタと手のひらで顔を扇ぐ。
小「どうしたの愛聖さん?」
様子がおかしい私に気付いた社長が、スっと屈んで顔を覗いてくる。
『あの、私のことはお気になさらずRe:valeのステージを見てて下さい···』
小「そう?でもなんだか顔が赤い気がするけど?」
『だ、大丈夫です!ホントに!』