第11章 スタートライン
『そういう冗談やめてください!心臓破裂するかと思った···』
ヘナヘナと壁に沿ってへたり込む私に、サッとメガネを掛けて手を差し伸べる二階堂さんは、いつまでも楽しそうに笑っていた。
うん···二階堂さんは、セクシー云々っていう前に意地悪要素がたくさんあるよ···
私にだけかも知れないけど。
その前だって缶ビール片手にリビングをウロウロしてるから、そんなにビールばっかり飲んでるとお腹がぽよよんになりますよ?って言ったら。
大「いまのところ平気。なんならお兄さんの腹筋、触ってみる?」
とか言いながらシャツ捲りあげたりするし!
絶対セクシーとは···遠い気がする。
ナギさんも、う~ん···セクシーっていうより、洗練された身のこなしというかなんというか。
まるで本当にどこかの王子様とか、そんな感じを漂わせるときあるし。
まぁ、普段はここなちゃんひとすじ!みたいな所もあるけど。
それで大騒ぎしていて、三月さんに怒られるのを何度も見てるし。
あ、三月さんといえば!
ついこの間、キッチンで三月さんが夕飯の支度をするのに魚を捌いているのを凄いなぁって逢坂さんと並んでカウンター越しに見てたら···
三「あのなぁ愛聖?そんなに見られるとやりづらいって」
『だって、三月さん魚おろせるとか凄いなぁって』
三「これくらい、ちょっと練習したら愛聖でも出来るぞ?なんならやってみっか?」
カウンター越しに魚をぴろんと見せて、三月さんが逢坂さんにエプロン出してやれよと指示を出す。
『いきなり私に···出来るでしょうか』
壮「誰でも最初からキレイに出来る人はいないよ。だから大丈夫だよ。それに、三月さんっていう大先生が教えてくれるんだから」
そんな微笑みながら言われましても···
結局、私を挟んで3人で肩を並べ、まな板に魚を置いて同時に捌く事に。
三「いいか?ここを押さえながら、包丁はこの向きで···」
お、押さえるって言われても!
『あ、あの三月さん?!魚さんがめちゃくちゃこっち見てる気がするんですけど?!』
おずおずと魚の頭を手のひらで隠せば、それを見て逢坂さんが笑う。
壮「愛聖さんて、そういう方向で考えるところがかわいいよね」
『だって私ホントにこういうのやった事ないから、どうしても魚の目が···』