第3章 新しい環境
小「愛聖さん、ちょっと部屋までいいかな?」
折り返しの電話をかける万理を見ていると、小鳥遊社長がちょいちょいっと手招きをした。
呼ばれるままに後をついて行くと、社長室の中には数々の段ボール箱が積まれていた。
『あ、倉庫に運ぶんですね?それじゃ台車を持って来ます』
流石に幾つも重ねて持ち運べる程の量ではなかったから、一度にたくさん運べるようにと台車を取りに行くと提案する。
小「いやいや、会社宛ての商品ではないよ。キミ宛ての荷物達なんだ」
『私の、ですか?』
私、こんなにたくさん何か注文した?
···もしかしてこの前、発注ミスったとか?!
それはヤバいと思い、慌てて駆け寄り差出人を確認する。
〝 八乙女 宗助 〟
差出人の所には、読み間違えるハズもない八乙女社長の名前が記入されていた。
八乙女社長が、私宛てにいったい何を送って来たんだろう。
それよりも、この送付表の文字って八乙女社長ではなく姉鷺さんの···字、だよね?
小「この前キミと一緒に八乙女の所に行った時、八乙女が言ってたんだ。残りの荷物を送ってやる、って。万理くんの住所を教える訳にはいかないから、ここにって僕が」
『でも、宛先は小鳥遊社長のお名前に···』
小「あぁ、それはね。この世の中、どこから情報が漏れるか分からないからって、八乙女からの配慮だよ」
あの日、手荷物としては少な過ぎるだろう量を持って部屋を出たけど。
残りの荷物なんて、とっくに処分されてると思ってた。
そう思いながら、姉鷺さんの字で書き記された八乙女社長の名前を指でなぞってみた。
小「それで、なんだけど。どうかな、この前の話···結論は出たかな?」
『寮の、事ですか?』
小「もしイヤだったら無理強いはしない。キミが生活しやすい圏内で住居を探すよ?もちろん、僕が保証人になるから心配しなくていい。探しに行くなら、万理くんか紡くんを連れて出掛けても大丈夫だから」
すぐにどこかで家を借りる事が出来ないわけじゃないから、部屋を探すのはなんの苦でもない。
だけど、それでいいの?と自分の中で足踏みをしてしまう。
かと言って、いつまでも万理の部屋に居候状態にあるのも事務所的にというより···世間一般的にダメ、なんだろう。
なんの約束もない大人同士が同じ部屋で生活してるんだから。