第3章 新しい環境
『お電話ありがとうございます。小鳥遊プロダクション、佐伯がお受け致します。あ、はい、いつもお世話になっております···申し訳ございません、大神はいま、他の電話を応対中でして···畏まりました、早急に折り返しのお電話をさせて頂くようお伝え致します、はい、失礼致します···』
···ふぅ。
ここでの所属が決まって、いつどうなるか分からないから、特に外で働ける訳でもない私は時間がある時は事務所のお仕事を手伝っていた。
レッスン場は空いてる時に自由に使っていいからと社長にも言われたけど、やっぱりそれは夢に向かって走る彼らに優先的に使って欲しいし。
私は研究生だけど、慌ててレッスンしなければならない事情もないし。
だから、みんなが使い終わったあとに···少しだけ、過去の台本を思い出しながら一人演劇をしてみるとか、イヤホンつけて踊ってみるとか、そんな風に過ごしていた。
今のところ、まだ···住まいは万理のところだから多少遅くなっても帰りは万理と一緒だし。
小「おはよう、愛聖さん。なんだか新しい事務員が増えた様な錯覚を起こしちゃう対応だったね」
万理宛の電話をメモ書きしていると、背後から声を掛けながら社長がポンッと私の肩に手を置いた。
『社長···おはようございます。それでもいいんです、私は時間だけはいくらでもありますから。それに、楽しいですよ?この事務仕事も。このまま事務員として働いてもいいかな?って思えるくらい』
万「それは、俺の仕事がなくなっちゃうから困るんだけど、ね?」
『そしたら今度は私が万理を養ってあげます』
万「あのねぇ、それじゃ俺がヒモみたいだろって」
小「じゃあ、万理くんがヒモ生活にならないように僕も頑張って仕事取ってこないといけないね」
万「社長まで···」
ここ最近は、こうやって小鳥遊社長と私とで万理をからかっては和やかな時間を過ごしてる。
それがとっても楽しくて、忘れかけてた事を思い出させてくれる気がして···
『万理、ヒモにならないように···はい、これ。印刷会社から電話来たよ。急ぎの用があるから折り返してほしいって』
メモを手渡し、電話を指さす。
万「了解です。ヒモにならないように頑張りまーす」
万理の言葉に小鳥遊社長と顔を見合わせて、また笑った。