第11章 スタートライン
❁❁❁ 大和side ❁❁❁
「···と、いう事だけどイチはなにか気付いた事はあるか?」
ホテルの部屋に入って軽く荷解きをした後にイチに話を振れば、イチは少し考えてから···言われてみれば思い当たる節があると返した。
一「確かに例の一件から先、佐伯さんは部屋に籠ることが多くなった気がします。以前は特に用事がなくてもリビングにいて七瀬さんや四葉さんとじゃれ合ってましたからね」
ベッドに腰掛けるオレの向かい側に同じように腰掛け、イチは続ける。
一「まだ···相手が誰だか分からない着信が続いているんでしょうか」
「さぁな···でも、寮で部屋から出てる時もあまりスマホを持ち歩かなくなってることは確かだ。まだ変な着信が続いているのか、それともそれがトラウマになっててなのかはオレにも分からないけど···愛聖が元気ないみたいだってオレに言ってきたのは、タマなんだよ」
コンビニに行くのに着いてきたタマが、マリーがずっと元気出てないから王様プリン買ったら喜ぶか?ってオレに聞いてきたのが最初だったけど。
一「四葉さんは···こう、なんていうか、そういう所は動物的な勘が働くんでしょう。あの人は普段学校でも、寝てるか、おやつを食べているかと言うのが殆どですが、ほかの誰もが気づかないような小さなことを最初に気付いたりしてますから」
「動物的な勘って···まぁ、タマは言葉数が少ない分、周りをよく見てることもあるからな」
一「ですね。それと真逆なのが、七瀬さんですけど。あの人は周りどころか自分のことさえ分かってない時がありますからね」
オレから見たら、イチもたまにそういう時あると思うけど···それは今は言わないでおくとしよう。
「愛聖がなにかをひた隠しにしてるのに、こっちから声かけるのもなぁ···とか、思っちゃってんだけどさ?」
一「大神さんなら簡単に聞き出せるとは思いますが、きっと佐伯さんは大神さんにも知られたくないと考えているのかも知れませんね···例えば、想いを寄せる相手が出来てしまった、なんて事もありうるのでは?」
···無きにしも非ず、だな。
それならそっとしといた方がいいな、と言いかけた時、イチは不敵に笑みを浮かべた。
一「まぁ、冗談ですが」
「イチ···お前いい性格してるなホント」