第11章 スタートライン
それからすぐ、社長が僅かな関係者のみに状況を知らせ、私は···
百ちゃんに連れられて、一時的にRe:valeの楽屋を共有させて貰う事になった。
楽屋に入るなりドアに鍵を閉めて、百ちゃんが千に事の詳細を説明すると、千は状況はどうであれ、私自身に何もなくて良かった···とため息を吐いた。
千「それで、社長さんは?」
『いま、番組制作側の上役の人と、それから局のお偉いさんと話し合い中だけど、終わり次第ここへ来るからって』
千「そう···分かった。じゃあ、それまでに僕たちが支度を手伝ってあげる」
『あ、でも···支度はまだこれから考えなくちゃいけなくて』
私の楽屋に用意されていた衣装や、メイク道具は全て···使える状態じゃなくなってしまったから。
だから、社長が戻らないとどうしたらいいのかは分からないし。
百「あ、そうだ!そう言えば楽がRe:valeの部屋に着いたら何もしないで待ってろって言ってなかったっけ?」
千「楽くんが?」
楽はさっき、確かにそう言ってたけど。
千「まぁ···収録はまだまだ先になりそうだから、遠慮せずにここにいればいいんじゃない?···コーヒーでも入れる?インスタントだけど」
返事を待たずに、千がカップを並べてスティックコーヒーを作り出す。
注がれるお湯から立ち上がるコーヒーの香りが、緊張したままの心をゆっくりと解いて行った。
けど。
『千···毎回、意地悪しないでよ』
手渡されたカップの中身は、どう見てもブラックで。
苦くて飲めないからと抗議すれば、それはまたいつものように千が笑いながら砂糖とミルクを入れてくれた。
チラリと時計を見ては、社長はまだ戻らないのか···とカップに目を戻す。
出来る限り出演する方向で話はしてくるからと言っていたけど、どうなったんだろう。
あの部屋の状況から考えれば、それをした本人は私が番組に出ることを望んでいないと思える。
切り裂かれた衣装に、鏡に書かれた文字。
そこまでする理由といったら、そういう事にしか考えられない。
限られた人間しか入れない建物に、場所。
そう考えれば、誰が···と言うのもある程度の目星は着いてくる。
だけど、まさか?という気持ちも先に立ち、自分でもそれを認めたくはなかった。