第11章 スタートライン
小「それにもし、キミたちになにかあったら、僕は八乙女にも岡崎くんにもどれだけ謝っても足りなくなっちゃうから。ほら、八乙女ってすぐ怒るから···八乙女が本気で怒ると怖いからねぇ···あ、これは八乙女にはくれぐれもオフレコでね?」
クスッと笑いながら両肩を竦める姿を見て、その場が一気に和んでしまうのを感じた。
この人、凄いや···
たった少しの言葉で、マリーを初めとして、オレや楽までも気持ちを落ち着けてしまう人柄が、ホントに凄い。
小「さて。キミたちは少しドアから離れていてね?あ、それから愛聖さんはこれを預かってて?」
社長さんが打ち合わせで配られた資料や自分の手荷物をマリーに渡して、ドアの外から中を凝視しながら中へと入っていく。
その間ずっと、オレは楽とマリーを挟んで廊下に立っていて。
誰が···なんの目的でこんなことを、なんて考えていた。
一瞬、例のあの子の事が頭を過ぎったけど。
でも、さすがにここまで酷いことをするとは思えなくて。
もし、それをユキに言えば···考えが甘いだとか、言われちゃうのかもだけど。
小「う~ん···中には誰もいないみたいだね。内部の人間か外部の人間なのかも分からないから、上の人に報告して···あとは···今日のゲスト出演がキャンセルになるかも知れない事を考えないと···」
だよなぁ···調査とかあるし、もちろんマリーの心情を最優先したら、それが1番だからね。
どうなるかは番組制作側と、局のお偉いさんの判断になるけど、もしキャンセルならキャンセルで仕方ないよ。
『私、出ます···社長、キャンセルはしません』
楽「だって愛聖、こんな事があった後じゃ」
『確かにそうだけど、でも私だってこれくらいのことに左右されるタレントだと思われたくないから。出るなって言われたなら仕方ないけど、そうじゃないなら出ます!お願いします!』
マリーの手元を見れば、まだそこは微かに震えていて。
本当は怖くて仕方ないのを必死に耐えてる感じが痛々しくて。
小「···分かった。話してみて、どういう結果になるから分からないけど、それでもいいかな?」
『···はい』
オレは···その震える手に、自分の手を重ねてあげることしか···出来なかった。