第11章 スタートライン
そう楽と話しながらエレベーターホールに着きボタンを押せば、ちょうど降りてきたエレベーターが、ポーン、と緩やかな音をさせてドアが開けば、見知った姿に思わず笑ってしまう。
『百ちゃん、今日はよろしくお願いします』
百「マリー···と、楽?あれ???なんでマリーがここに?楽屋にいるんじゃないの?」
私の姿を見て不思議そうな顔をする百ちゃんに、私は売店出てから楽とずっと一緒だったけど?と返せば、それを聞いた百ちゃんがまた首を傾げた。
百「おっかしいなぁ···オレ今さ、収録まで待ち切れなくてマリーの楽屋まで行ったんだけど、人の気配はするのに鍵は閉まってるし、何度か声掛けたけど返事はないし。だから、もしかして着替えでもしてんのかな?って思って、ユキになんか買って戻ろうかと降りて来たんだけど」
楽屋に人の気配?
でも私は荷物を置いて出ちゃってたし、そんなはずはないと思うんたけど。
『百ちゃん、その部屋ってホントに私の楽屋だった?間違えてない?』
百「オレが間違えるはずないよ!だって、ちゃんとスタッフさんに聞いたし、ネームプレートもマリーのだったし」
そこまで百ちゃんが確認してるなら、楽屋を間違えたって事はなさそうだよね?
『あっ、もしかしたら社長が打ち合わせから戻って来てるのかも?何も言わずに楽屋を出ちゃってるから、心配してるかも?!』
社長が打ち合わせから戻ってれば、それなら楽屋に人影があってもおかしくはないし。
楽「ちょっと待て、愛聖。百さんの話をよく思い出せ···もしそっちの社長が楽屋にいたとして、百さんが声を掛けてるのに無視なんてするのか?お前のとこの社長はそういう人間じゃないだろう?」
言われて見れば、確かにそうだ。
うちの社長だったら、もしそこに私がいないとしても訪ねてきた百ちゃんを無視して追い返したりなんてするハズがない。
寧ろ···快くほっかほかの笑顔で迎え入れて、一緒にお茶とか飲んで談話しちゃってそうだし。
じゃあ、楽屋にいたのは···誰なの?
番組スタッフさん、とか?
違う。
それこそ、緊急時じゃない限りは誰もいない楽屋に立ち入ったりはしない。
まさか泥棒さん?···な訳ないか、ここテレビ局だし。
『楽、百ちゃん···私、急いで楽屋に戻ってみる』