第11章 スタートライン
そうだ···
愛聖専用のドレッサーがないな。
遊びに来た時は、別に不自由してないからと言って洗面台や手鏡で用事を済ませてるけど。
どうせなら、愛聖が自由に使えるドレッサーを置いてやったら、喜ぶんじゃないか?
ベッドルームに置けば、僕が微睡んでいる時も愛聖はそこにいるだろうし。
僕やモモと支度が被っても、なんの問題もないから。
リビングのラグも、そろそろ違うデザインに。
それからラックも···なんて、アレコレ見ているうちに、買い物カートは様々な商品でいっぱいになっていた。
もはや···引越しの荷物か?と思わせるような品数に、それはそれで笑ってしまう。
更にいえば、モモが食べるための肉や魚なんかも冷蔵庫に入り切るのか?という位の量になってる。
···ここは少し、減らそうか。
必要最低限まで少しずつ数を減らしていき、これから配達する人も手間がかからないだろうという量数まで到達すると、ようやく購入ボタンを押す。
家具の組み立てはモモ担当で。
ご褒美に僕は料理を提供して。
そんなごく近い未来予想図を思い浮かべながら、会計が済んだサイトを閉じた。
時計を見れば、モモが飲み物を買いに行ったにしては随分な時間が過ぎていて。
これは予想通り、愛聖の楽屋に遊びに行ってるか、行く道々でスタッフと談話しているんだろうと考える。
モモは僕と違って、人懐っこくて友好的で···交友関係も幅広い。
そんなモモだからこそ、新人タレントが頼りにしたり、大御所さんから可愛がられるんだろうけど。
大御所さん···
そう言えば、あの人から最近連絡がないな。
僕が随分とお世話になった、あの人。
駆け出しでまだ仕事もろくにないRe:valeを陰ながら応援してくれていた。
車を洗いに来いだとか庭掃除を手伝えだとか言っては、駄賃だと言って···当時のギャラよりもたくさんのバイト料をくれたっけ。
たまには僕から連絡してみようか。
その時はモモも連れて、いつもご贔屓にして下さってるから今日はサービスです、なんて言って洗車をしてみよう。
モモとふたり泡だらけになって···楽しむ日があるのも悪くはない。
あの人の、息子さんの話も···少しなら出来るかも知れない。
そう思いながら、その相手のアドレスを開いた。