第11章 スタートライン
それはそれで、なんとなく気が重くなるような···
こないだの飲料のCMで、別取りとはいえ同じ商品のCMに関わったからこそのゲスト出演なんだけど。
だから、番組の後半からは···彼女も来る。
どんな顔していればいいんだろう。
普通にしていられる?
天から聞いた話を次々と思い出す。
天 ー 誰かに夢を与える一方で、多少なりとも誰かに辛酸を舐めさせ恨まれる事もある。そしてそれが・・・ボクたちの仕事の形でもある ー
確かに天が言ってることも分かるけど。
はぁ···やめよ、考え込むの。
ただでさえ、今日から数日はひとりで過ごさなきゃいけない時間があるんだから。
それよりも支度!
早く支度しないと、局入りの時間が遅れちゃう!
社長がここへ迎えに来てくれるまでに、ちゃんと身支度を終わらせておかなきゃ。
着て行く服はどれにしようかな?
メイクは向こうでちゃんとするから軽くていいよね?
髪は邪魔にならない程度に纏めて···それから···
部屋に戻って、あれやこれと服を合わせてはクローゼットに閉まっていく。
いつもなら、これ!と決めてサッと支度してしまうのに、いつまでも大きな独り言を呟きながらうろうろとしてしまうのは···ここに自分ひとりしかいないって事を考えないようにしているからなのかも知れない。
扉を閉めたり、歩き回ったりの生活音がとても大きく響くのを感じて、静まり返った部屋でため息を吐く。
まだみんなが行ったばかりなのに、こんなんじゃ笑われちゃうよね。
『早く支度して事務所に行こう』
誰もいない部屋で声に出し、気持ちを切り替えて身支度をした。
社長が迎えに来てくれるって言ってたけど、支度も終わったし私から事務所に向かった方が早く出掛けられるし、そうしようかな。
あちこちの戸締りを確認しながら玄関へと向かい靴を履く。
『行ってきまーす!』
いつもと同じように言って、素早くドアを出て鍵を閉める。
ふと見上げた空の流れる雲を見つめながら、今日も頑張ろう!と、そう呟いた。