第10章 不測の事態
お蕎麦屋さんの後を歩いて、配達バイクの所まで来る。
「はい、お釣り···と言いたいところだけどな、愛聖」
『や、やっぱり楽じゃ···モガッ···』
楽「デカい声出すなアホ!バレるだろうが···ったく」
バレるだろうがって、私にはバレてんじゃん!
咄嗟に押さえられた口元が自由になり、はぁぁぁ···と大きく息を吸う。
『なんで楽がお蕎麦屋さんの配達なんてしてるの?!びっくりしたよ』
楽「いろいろあんだよ俺にも」
『いろいろって、だってアイドル活動しながらアルバイトだなんて聞いてなかったから』
そもそもTRIGGERって、バイトと掛け持ちしなきゃ行けないほどそんなにギャラ少なかったっけ?!
もしかして天や龍もどこかで···?
楽「おふくろの実家が蕎麦屋なんだよ。今日はその手伝いだ」
『お母さんの···って、あぁ、そっ、か···』
楽のご両親···つまり、八乙女社長はずっと前に離婚されてるから、そういうことなのか···
『でも、それなら別に楽が配達してるって知られた方が繁盛するんじゃないの?』
楽「アホかお前。そんな事してたらTRIGGERの仕事が出来なくなるんだよ。親父はこの事を反対し···」
楽と寮の脇で話していると、少し離れた所から話し声と人影が見えた。
楽「マズイな···愛聖、ちょっとこっち来い」
『え?あっ、ちょっと?!』
グイッと引っ張られるままに寮の壁の中に隠れる。
『ちょっと楽?私はともかく、楽はお蕎麦屋さんの格好してるんだから平気でしょ?さっきも言ってたじゃない?あんなイケメンじゃないんで~···だっけ?』
楽「う、うるせぇな、それ以上喋るな···口塞ぐぞ」
『口塞ぐぞとか、そんな物騒な···』
楽「物騒なヤツじゃなきゃいいんだな?」
え···?
一瞬の間を開けて、目の前の景色が変わる。
『なに···してるの···?』
楽「なにって、いわゆる···壁ドン?オンナってこういうシュチュエーション、憧れてんだろ?」
憧れてって···相手にもよるでしょ?!
『冗談やめてよ、そこ退いて?』
壁に伸ばされた腕を退けようと手を伸ばせば、その手は楽に掴まれてしまう。
楽「嫌だって、言ったら?」
···楽?
楽「このまま離さないって、言ったら?」