第10章 不測の事態
ユキの言葉に目を凝らしてよーく見てみると、確かにそこにはコード進行とか、他にも何かを書き込んだ形跡があった。
「マリー、作曲って出来たっけ?」
ちょっと前にユキの仕事部屋でギターを触ってはいたけど、どうなんだろ。
千「そうね···まぁ、ゆっくりと頑張れば出来なくもないんじゃない?愛聖にギターを教えたのは、僕と···万だから」
「ユキとバンさんが?!それって凄い英才教育じゃん!!」
オレが大好きな2人が師匠だとか、凄すぎるよ!
千「せっかくだからこの曲、このままで試しに弾いてみようか?」
「いいの?!」
ちょっと待ってて?と言ってユキは仕事部屋からアコギを持ち出して、その場で調弦を始める。
何度か軽く爪弾いてはメロディーを確認して···
千「うん···まぁ、今のところはこんな感じかな?じゃ、モモ···聞いてて」
ユキの指先から柔らかな音が奏でられ、それに合わせてノートを見ながらユキが歌い出す。
マリーが紡いだ言葉に、ユキが命を吹き込んでいく。
ユキの歌声なんて普段から聞き慣れているはずなのに、なぜだか今は···心の中を洗われている感じがして。
···泣けてきた。
千「···と、ここまでかな。モモ、そんなに泣くほど感動した?」
歌い終えた、ユキがオレを見て小さく微笑む。
「感動したっていうか、さ···どう言葉にしたらいいか良く分からないけど。でも、切なくて、暖かい歌だね」
千「そうね···」
マリーが何を思って、言葉を紡いだのか。
マリーが誰を想って、ここまで書き上げたのか。
それはきっと、マリーじゃなきゃ分からないかもだけど。
立ち止まりそうになった足が、また前に進み出せるような。
俯いた顔を上げて、前を向けるような。
そんな···優しい歌だった。
「もうホントにヤバい!オレ、マリーのこと愛してるかも!」
ズビッと鼻を啜りながら言えば、ユキは声を出して笑いながらオレにティッシュケースを向けた。
千「モモ?愛聖をどれだけ愛しても、1番は譲れないよ?」
「そうね···」
千「モモ···それ、僕のマネ?」
よく似てたでしょ?と言って笑えば、ユキも笑い出す。
月が微笑む、そんな静かな夜にオレたちの笑い声はいつまでも響いた。